歓喜

 通りにはたくさんの人がいた。みな、頬を緩めていた。おめでとうございます、いやあめでたいですねと酒を注ぎあっていた。全員、右手にグラスを持っていた。私は何も嬉しくなかったが、 周りに合わせて、嬉しそうにしていた。

「しかし、みんな、本当に幸せそうですね」

「まったく」

「こんな場に、喜んでいない人がいるとしたら、それは嘘ですよ」

「ええ、そうです。そんな人物は、人間ではない」

 私は恐ろしくなった。本当は喜んでいないと知られないように、大げさに喜んでみせた。

 向こうから黒づくめの男がやってきて、人々に何やら話しかけているのが見えた。「あなたは、本当は嬉しいのでしょうか」と聞きまわっているようだった。恐ろしかったので、万歳、万歳と、これでもかと大げさに嬉しさをふりまいた。すると、「お前ははしゃぎすぎだ」と、黒づくめの男に殴られた。周りの男たちが大きく笑った。いやな笑い方だった。黒づくめの男も堰を切ったように笑い始めた。仕方なく、私も笑った。そうしていると、彼らの一員に加えられた気がした。そうすると、だんだんなんだかおめでたい気がしてきた。

 おめでとうございます、おめでとうございますと酒を注いで回った。今度は本当に嬉しかったので、楽だった。

「いやあ、めでたい、めでたいですね」

「おっとっと、こんな日が来るとは」

 地響きがした。大きな戦車が前からやってきた。それを、先ほどの黒づくめの男が先導していた。「たいへんおめでたいので、ここらを爆破します」と大声で言って、黒づくめが合図すると、黒づくめもろとも大爆発して、大きな火柱が天高く昇っていった。

 私は、とてもめでたいと思った。大喝采した。めでたい、めでたい、素晴らしいとやっていると、周りの人々はみな暗い顔をしていた。

「なんて人だ」

「人の不幸を喜ぶなんて」

「ケダモノだ。人の皮をかぶったケダモノだ」

 私は謝った。死んだ方がいいと思った。やがて私は大きな猩々となっていた。目の前の男を殴ったら、手の甲がひりひりと痛んだ。

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