ライフ メーカー

@akimaru423

第1話

序章「君はいない」


赤色の花を咲き誇らした道を踏み潰しながら、あいつは、ずっと、ずっと直線上に行く。

椿は無慈悲に潰されて、ぶち、ぐちゅ、と虫を潰したような汚い音がなる。

汚い泥道を表した音楽を鳴らす、この道に嫌気がさしてるのか、歩行速度は速くなるばかり。

でも、俺は、足に咲いた花に絡まったあいつを綺麗だと感じた。

イカれてしまったのか、そう思ったが口に出すことでもないなと唾を飲み込んだ。

赤色の海を歩くあいつ。

青色の海に沈むあいつ。

どちらも、側で見てきた。

どちらがいいか、とか決める気はないが、あいつ自身が椿になった時、俺は何を思うのかは気にはなった。

そう、現実逃避していると、あいつはこちらに顔だけ振り向く。


「…これが戦争だよ。君はこれからも、この景色を見るんだ。

親しい人も

友愛を抱いた人も

愛しい人も

皆君より早く死んでいくだろうね。でも僕は後悔しなかった。だから君も後悔しないといいね」


そう言って見えた、あいつの表情は綺麗で、美しくて、そして歪な笑顔を魅せていた。

俺が選んだ道は、きっと__だから、大丈夫だって言って欲しい。

それが終わりへと向かう足音で、花火の様にバチバチなった気分になるのだ。

先ほど肉の塊が破裂していくのを見たせいだろうかなんて言い訳をこぼす。

さっきから花火が頭の中で散っている。

毒がもう頭まで回ってきたか、何てくだらない事を考える。

毒も病も傷もない、残るのは、心に灯った火(志)だけだった。


____


「空音(くおん)今日は何処行く?」


黒髪短髪で真面目そうなメガネをかけていて、それを塗り替えるほどにタレ目な学生服を着た少年は隣にいる友人、空音に話しかける。


「んーどないしよっか。そりゃ学校の窓をデコるという悪戯する為に百均行かん?」


空音と呼ばれた少年は女顔で、綺麗と、言ってもいいほどの整った顔に、黒髪にインナーカラーで黄色を入れていた。

肩につくか、つかないかのぎりぎりのラインまで伸びた髪を持ち。

その美人さんからは滅多に見れない、中々にザ・男子高校生っていう表情でそう言った。


「また、悪戯か?お前ほんと懲りないなぁ。まぁ付き合うけど」


少年はそうニヤッと笑って悪戯に乗っかる。

そうこれが彼らの日常である。

日常様々に悪ガキらしく、悪戯と遊びを繰り返して、この国で平和ボケしてる。

愚国民共。

見た人によっては良い意味で、平和の象徴みたいなものなんだろう。

だから今ここに、それを怒るものはいても、咎めるものはいない。

ヤンチャで元気なぐらいが良い、それがこの国での子供への教育方針だった。

だからこそのびのびと二人は自由に生きてきた、この日まで。


「空音、ほんとお前がいないと飽き飽きしないよ」


この時代の空音に吐いた最後の本音は、地震と共にかき消される。


「地震…?」


二人が驚いて周りを見渡してるうちに地面は割れて谷が出来る。

こんな大きな地震なんて初めてだし、当たり前だが唐突なことで、地割れなんて、どうする事も出来ない。

まるで鯨が泳ぐ海の上にいる気分。

戸惑う二人、日常が壊されていく音はゲームのエンディングのざまだ、ただ見て聞くことしかできなかった。

画面の中の出来事を見てるみたいでもあって、なんだか現実感がひどく冷めていく。

目の前で体感しているのに。

一人、少年は足を滑らせて身体が宙に浮く。


「炉伊(ろい)!」


必死に少年、炉伊に手を伸ばす空音。

炉伊は珍しく本当に焦った顔の友人を見て、何故かこんな状況なのに笑い声が出てくる。


「あぁ…」


俺はこんなにも友人に愛されていたのだな、と嬉しくて堪らないという感情を抱きながら死ねることに感謝して、炉伊は暗闇の底へと落ちていく。

その数秒であろう落下時間は目を瞑る。

大人しく足掻くこともなく、死を待つのだ、しかしその瞬間誰かに抱きしめられた気がした。


「ね__?_ぇ?」


体感としては何秒、しかし長い時間に感じる中、暗闇から意識が浮上した感覚がした。

そして上から誰か、話しかけて来てるのを理解するが。

頭を打ったのか、うまく思考が動かなくてまるで寝起きの夢と現実の間にいるみたいな身体は少ししか動かない。


「ねぇってば!」


透き通る様な少年の声が、脳に響くと共に頭に大きな衝撃が起こる。

まるで、頭を蹴られたみたいな。

いや、実際頭を蹴られていた。

仰向けになっていた、身体が蹴られた衝撃で横向きになるほどの衝撃を受け、ようやく炉伊は目を覚ます。

まるで、フライパンで頭を叩かれたような感覚だ。しかし目を開けた先はよく知る顔だったから少し安否した。それが間違いだと知らずに。


「…空音?」


先ほどまで談笑していた友人の顔が目に映る。しかし、不思議なことに友人は先程とは違う服装だし、周りも全てが噛み合わない。

自分はこんな赤い花の花畑で寝ていたのだろうか?と炉伊は星が回ってる脳で必死に思考を巡らせる。


「空音?地震は?ここは?何分たった?…空音?なぁ空音」


必死に状況を理解しようと、友人に何度も、何度も、問いかける。

でも友人であるはずの彼は嫌悪感を露わにした目を、こちらに向けるだけで何にも喋らない。

炉伊は、余計不思議に感じる。

だって、炉伊の中では空音はいつだって明るくお喋りなムードメーカーという言葉を体現したような人だったから。

だから、恐怖と困惑を抱いて、必死に友人の顔を見つめながら問い続ける。


「…なぁ俺、なんで生きてるんだ?もしかしてここっててんご「バッカじゃないの?天国なんてこの世にはありやしない」」


「…え?」


炉伊の脳に返ってきた言葉は、どうも空音とは思えない言葉。

先ほどからの表情、行動、全てが炉伊の知る彼ではない。

まるで全く同じ見た目の人がいる、平行線にでも迷い込んでしまった感覚だ。


「空、音だよな?」


確かめる為の問い。

唾を飲み込み寝転んだまま返事を待つ。

すると彼はいつまで経っても起き上がらない炉伊にイラついたのか胸ぐらを掴み、立ちあがさせる。

困惑して、彼の手を払いのけようとする行動も無意味に終わり、空音の顔をした誰かの顔が近くなる。


「…電磁波は遮断してる田舎者だと思ったら変質者か。お前さぁ、誰かと勘違いしてるか知らないけど、僕は空音とかいう奴じゃない。


僕は旧型戦闘用ドール012番、ジャンクヘッドさ。


人間なんかと間違えないでよね。」


「…は?」


自分の頭はどうやら本当におかしくなってしまったらしい。

何て炉伊の脳は呑気に思考するが、それはまだ始まったばかりの話だから全てを知りゃしない。


だから、これは、命を知る話。






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