少子化対策なのに子育て支援のバラマキ?経済対策なのに給付金のバラマキ? いい加減政治に突っ込ませてもらおう:パラレルワールドからの造反!

天津 虹

第1話 ここは都内にあるとある病院の待合室

 ここは都内にあるとある病院の待合室。


 長椅子に持たれ、ボーっとテレビを見ている男がいた。その目には覇気がなく、頭も白髪が目立ち、その表情には深い皺が刻まれていた。


 男が見ているテレビでは、アナウンサーが暗い顔で、行き詰まった日本の現状を告げていた。


「日本がアメリカに宣戦布告した西暦一九四一年から一〇〇年後の二〇四一年現在、日本が経済的に追い詰められた状況は当時以上かもしれません。


 20年前の新型コロナ渦以来、救済政策と称したばら撒きと国際援助の名目で発展途上国にばら撒いた支援金のため大量の国債が発行され、それ以降はなし崩し的に歯止めが失われ、社会保障費の増大に合わせて、国債の発行高は増え続けました。


 そして、ついに国債の発行高は一五〇〇兆円を超えました。

 デフォルトの懸念により円安が進行し、原材料を輸入にたよる日本経済は、コストプッシュから物価は上昇し、国内経済は低迷し、賃金は20年前から全く上がっていません。

 20年前、コロナ渦からの経済回復は程遠かったにもかかわらず、一部の企業は人手不足から賃上げに踏み切りましたが、政府は防衛費の倍増と子育て支援のため、消費税を12%の増税を決定しました。


 消費税を上げる度に経済不振を繰り返した日本経済は、再び、日本は大不況に陥り、失業率は5%に迫る勢いで、それ以後の政府の政策は無策という名を拝命、焼け石に水状態です。


 二〇四一年の人口は一億一千人を切り、出生率も0.9を切って、生まれてくる子どもは七〇万人を切っています。65歳以上の高齢化率は3割を超え、GDP、日本の国内総生産額は20年前より1割以上減少しています。


 この状況下で、政府はコロナ渦で大量の発行した国債が返済時期を迎えたのを機に、消費税を来年度から二%上げて二〇%にすることを閣議決定しました。


 貿易収支の累積赤字は二百兆円を超え、物価は二〇年前と比較して10%以上の上昇です。

 円通貨危機のため、末期症状の日本経済も最終局面で、IMFが介入寸前、財政再建のためにあらゆる福祉施策は廃止される予定です。


 こうなる前に何か手は打てなかったのでしょうか? 政府の責任が問われています」


 テレビの画面では、増税反対!! もっと福祉を!! 物価を下げろ!!と書かれたプラカードを持ってデモする集団が映し出されていた。

 

「なんて世の中になってしまったんだ!!」


 テレビに向かって思わす呟いた男の目には怒りが灯り、すぐに諦めへと光を失った。

 男の名前は町田和彦。二〇年前、テレビで言っていたコロナ渦で勤めていた会社が倒産してしまった。


 すぐに就職できるものと考えていたが、その当時30歳という年齢がネックとなって、面接さえ受けさせてもらえず途方に暮れていた。


 ハローワークの職員に失業保険の給付期間が延長できると勧められて、職業訓練校に通って身に着けた技能は電気工事士……。


 なんとか面接にこぎ付けた会社の採用者に「即戦力じゃないんだよな~」と断られ、それでも契約社員として就職して、エアコンやテレビの設置の外回りに四苦八苦し、現場指導者に「現場経験がないと使えないんだよな~」と無能呼ばわりされた。


 二〇年間、景気は回復することなく、同じような転職も3回目までは覚えていたけれども、そこから先は覚えていない。


 今も6か月期限の契約が切れて、雇止めされてハロワ通いだ。


 そんな不安に取りつかれ、50歳という年齢に追い詰められた町田は精神を病み、ここ3年は体調を崩し病院に通っていた。


 しかも、精神科では次から次へと病名が変わり、服用する薬も増えていく。その結果、信頼できる医者もおらず、病院を転々と変わってこの総合病院で六軒めだ。


 町田は転職のたびに収入が減り、今や年収は200万円ほどだ。税金それに年金や保険料を払えば、毎月の手取りは10万円ほどしか残らない。その上20%の消費税を掛けられるとなれば……、単純計算で収入の半分が社会負担に持っていかれている。


 五公五民、徳川幕府が収入の半分を年貢納めさせたのをそう表現したらしいが……。


 ここは江戸かよ! お代官様勘弁してくだせぇ~。そんなセリフを総理大臣に吐いてみたところで……。

 直訴とみなされ、首を刎ねられるか?! いや、実際にネットの中では、同じようなコメントが並んでいるが、何一つ総理大臣どころか、選挙のたびに握手を求めてくる地元の政治家にさえ届かない。


 収入が少ない町田の頼みの綱は親の年金だ。親が受け取っている年金の支給額も制度改正を重ねるたびに減額され、二〇年前と比べると一五%も減っている。


 それでも、町田に比べれば大分ましだ。町田の年だと70歳からでないと支給されないし、もらえる額は親の世代と比べても15%減、しかも六五歳まで年金を掛け続けなければならない。そんな年まで町田のような何の取柄もない中高年を誰が雇ってくれるというのか……。


 親には申し訳ないがパラサイトとして寄生しなければ、生きていけない。


「親の年金で、俺の年金保険料を納めているわけだ……」


 年金制度を若者から高齢者への世代間の仕送りと説明する人がいるが、この状態をその人はなんと説明するのか? いや、高齢化率が三割以上、高齢者一人を若者二人で支える制度が維持出来ていることが奇跡だ。


 まあ、日銀が国債を買い取って、お札を刷り続けてお陰だ。ただし、当然インフレは止まらない。制度上の減額、物価上昇のために相対的にも減額されている。

 町田が老親の年金をあてにするのはある意味、制度を維持するうえでバランスがとれている気がする。


 そんな鬱思考はモニターに映し出された町田の受付番号に中断された。


 待合室の長椅子からヨロヨロと立ち上がり支払い窓口に向かう。


「五千四百円になります」

 先月より千円以上上がっている……。今月から医療費の窓口負担は町田のような六十五歳以下は四割、六五歳以上からは三割負担になっている。


「世知辛い世の中だ……」


 町田は出そうになったため息を喉元で押さえ、事務員の声に財布の中からなけなしの一万円札を取り出した。


 おつりは四千六百円。次の失業保険の給付までまだ一週間ある。今月も赤字になりそうだ。

 以前、せめて医療費だけでもなんとかならないかと区役所で相談してみたが、「お子さんでもいたら、色々と給付金もあったんですけど……、独身だとね~」


 と含み笑いを浮かべながら門前払いされた。


 自分が子どもを産み育てなかったことが罰であるかように、他人の子供を育てる負担からは逃れられない。自業自得だと攻められている気がした。


 二〇年前のコロナ渦の時には、経済的に困窮しているふりをすれば、どんどん補助金をばらまいて、不正受給さえ見逃されていた時代もあったのに……。


そもそも、非課税世帯の七割は年金を受ける高齢者世帯であり、コロナによって収入が減ったわけではない。


 年金一五〇万と町田みたいな給料収入が二百万だと、基礎控除が大きい高齢者は所得がほとんどなくなり、課税所得額で逆転現象が起こる。それに、非課税でも、貯えが数千万とかそれなりにある高齢者世帯と、町田みたいに収入のすべてが生活費に消え貯えのない若者。 

 

 さらに社会保険で言えば、年金保険料を納めなければならない町田にはさらなる社会負担が圧し掛かる。


 課税か非課税で生活の困窮度を比較することなど意味がない。


 あの時から何ひとつ政府に施策は変わっていない。だから、今月も親に金をせびらないと生きていけない……。


「なんて世の中になってしまったんだ?!」

 二度目に吐いた同じ言葉には、先の見えない未来に憤る思いが込められていた。

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