地獄の瘴気亭~赤字だけど働きやすい職場です。赤字だけど~

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第1話 冒険者タカコの依頼~父親がオカマに貢いでるんです~

ユーレスト大陸中央に位置するアメリア王国王都ロンド。ここはその片隅のギリ王都と言えないこともないところにある〝地獄の瘴気亭〟。


「アニキ!飲んだくれてないで少しは働いてくださいよ!」


厨房から料理長である龍人族の少女ユフィの声がする。


「働くったって客なんかどこにいるんだよ。それに俺は今『天才密偵(スカウト)少女!連続鍵開け記録に挑戦!』を見届けなくちゃいけねーんだ!」


店の酒を飲んでダラダラテレビを見ている男が店長のリン。


「リン、少しは働いた方がいいんじゃねーのか?ゴクゴク」


酒を飲みながらリンに話しかけるカラスが一羽。


「お前こそ働けよ、ギル」

「カラスが働けるわけないだろ。ゴクゴク」

「カラスは酒を飲まないんだよ」

「カラスなんて飲まないとやってけないんだよ」

「元魔王だろうが」

「だからこそだろーが!お前のせいでこうなったんだから酒ぐらい飲ませろ」


ギルと呼ばれているこの喋るカラス。実は元魔王でもある。だがまあそれはそこまで重要ではない。


「アニキ!客がいないなら客引きにでも行って来て下さいよ」

「だから俺は鍵開け少女の応援を!」

「それは仕事じゃないでしょ」

「うっ!」

「自分は仕込みがあるんで手が空いてるのはアニキだけなんすよ!」

「くそ!ぐうの音もでねぇ」


これは人間たちを恐怖に陥れた魔王が討伐されて200年が経った世界。

魔法もあるが科学もある、結構便利な世界。

ある程度平和で、人族も亜人族も魔族も精霊族もその他諸々も割と平等に暮らしていた。

アメリア王国も王国とは名乗っているが、王は象徴のようなもので政治的権力はない。

政治については議会が決定権を持つ。

そうは言っても人が暮らしているんだから事件もいざこざも起こる。

これはそういった事件とかをできるだけスルーしながら、廃業との狭間を戦い抜く〝地獄の瘴気亭〟の物語である。





私は冒険者のタカコ。

今私はとある酒場を探している。

ギルドマスターから聞いた酒場だ。


『王都の外れには凄腕の連中がひっそりとやっている酒場がある。その店は万年金欠で割と安価でなんでも引き受けてくれる』


ギルドマスターはそう言っていた。

正直ギルドマスターはとてもいい加減な親父だ。

しかしそんないい加減な親父の言葉にも縋るしかないほど私は追い込まれていた。

そうして私は王都の端を一周、一か月かけて捜し歩いた。

それでも見つからない。

やはりクソ親父の世迷言だったのか。

もうここまでなのかな。

心が折れていくのを肌で感じていた。


「あ、お嬢さん。この先に酒場があるんだけど、ちょっと寄っていかない?」


膝をついて諦めてしまおうとしていた私の前に怠そうな男の人が立っていた。


「あなたは?」

「いや、すぐそこの酒場の店長なんだけどね。料理長の小娘に客引きに行けって言われてさ。しょうがなく出てきたら喉乾いて膝ついてる女の子がいたから一杯どうかなと思って」

「いえ、喉乾いて膝ついてたわけじゃないんですが。え!?酒場!?本当にこんなところにあるんですか!?」

「あるよ。ほれ、そこ」


彼が指さした先には、、、。


「あれは古びた廃屋では?」

「違う違う。よく見てみ。〝地獄の瘴気亭〟って看板立ってるじゃん」

「とんでもない名前ですね」

「うーん、色々考えたけど名前はやっぱりインパクトが大事かなって。地獄とか言われると逆に入ってみたくならない?恐いもの見たさ的な。それで入ってみたら案外いけるじゃんみたいな。最初にハードルだいぶ下げとくことによって中の下でも中の上ぐらいに見せらるっていうアレよ」

「あ、ああそうなんですね。とにかく行きます!私はずっとあなたのお店を探してたんです!」

「マジでか!もしかして隠れ家的な人気出てきちゃってる?」


〝地獄の瘴気亭〟は入ってみると結構普通のパブといった感じだった。

お客さんは一人もいないが厨房の奥からは美味しそうな匂い。

バーカウンターには羽で器用にジョッキを飲んでいるカラスが一羽。


「おーい、ユフィ。客連れてきたぞー!!!」

「え、マジすか!?本当に客連れてこれたんですか!?」

「ああ、喉乾いて倒れてたからエールでも飲ましてやってくれ」

「はいはーい!」


そんなに喉は乾いてなかったけど、久しぶりのエールはおいしかった。

幸せ―。

って幸せになってる場合じゃなかった!


「今日は依頼があって来たんです!」

「依頼?注文じゃなくて?」

「王都のギルドマスターからここに来れば色々な問題を解決してくれると聞きまして」

「あのクソ野郎。余計なこと言いやがって」

「お金ならあります!!!」

「、、、ちなみにおいくら?」

「30万フェンあります!!!」

「30万フェン、、、」

「やっぱり少なかったですか?」

「少ないと言えば確かに少ない。ただその額はうちの店の2月分の売り上げに相当する。話を聞こう」


やった!クソ親父の言っていたことは正しかった!


「実は私の父の話なんですが、、、」

「悪い女にでも引っかかったか?」

「悪い女ですか。それならまだよかったですよ」


思い出しただけで怒りがわき上がる。


「めっちゃ怖い顔してるけど大丈夫?」

「あ、すいません!父は真面目な人だったんですが、母が男を作って出て行ってから酒に溺れるようになり、今ではオカマバーのオカマと付き合っているんです」

「、、、なるほどね。性別の壁をぶち破ったんだ。なかなかできることじゃないよ。立派じゃん」

「立派なもんですか!父がオカマと付き合う訳がないじゃないですか!きっとチャームの魔法にかかってるんです!」

「いやいやそういう差別はよくないよ。愛にはいろんな形があるんだって。そもそも最近のニューハーフって本物の女の人と見た目変わらないからね」

「これが父とそのオカマの写真です」

「はいはいこれね。、、、お父さんどっち?」

「右です」

「じゃあこの恰幅の良い髭面の人がお父さんの恋人?」

「そうです」

「写真間違ってない?これ試合勝った後に肩組んでるバッテリーじゃない?」

「違います」

「そっか。バッテリーだったら応援できたんだけどな~」

「ロンドオカマ連合についてはご存じですよね?」

「いやそんな気味悪い連合知らないけど」

「今王都で幅を利かせてきてる新興マフィアです」

「マフィアって今そんな厳しい世界になってるんだ」

「お父さんもゴワスさんに結構貢いでいて」

「ん?ゴワスさんって?」

「さっき見せた父の恋人です」

「ゴワスさんは今のところ一つも女に寄せようとして来ないね」

「本名は知らないですけど、語尾がゴワスなんでそう呼ばれているらしいです」

「そこ本当にオカマバー?オカマさえも怪しくなってきてるんだけど」

「リン、その娘が言う通りロンドオカマ連合は結構あくどい事やって金稼いでるみたいだぞ」


あ、カラス喋るんだ。


「なんでお前がそんなこと知ってるんだよ」

「この前、俺が飲んでる酒の匂い嗅ぎながら水だけ飲んで帰って行ったホームレスが言ってた」

「そんな奴店に入れてんじゃねーよ!」

「それでお嬢さんは自分たちに何をしてほしいんすか?」


厨房から女の人も出て来た。

この人はまともそうだ。


「お父さんにかかっているチャームを解いてもらって、ついでに騙し取られたお金も取り返してほしいんです!」

「なるほど。じゃあそのオカマ連合を潰しちゃえばいいのね」


店長さんがさらっと言い放つ。

相手はオカマだけどマフィアでもあるんだけど。


「出来るんですか!?」

「というかそんなヤバそうな組織、デカくなる前に潰しとかねーと」

「ありがとうございます!ではまず父に会ってもらえませんか!」


こんなに簡単に依頼を引き受けてくれるとはさすがに思ってなかった。

本当にマフィア潰せるとまでは思ってないけど、今私が頼れるのはこの人たちだけだ。

賭けてみよう。

私は〝地獄の瘴気亭〟の方々を連れてお父さんが待つわが家へと帰った。

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