#
概念薄理化
202*/**/**
午後かどうか分からぬほど中途半端に空が暗い日曜の暗い雨
//
灰色の窓ガラスを雨粒がぷつぷつと光らせて濡らす 自家用車の苦手な匂いに鼻が慣れて息をしている 緩やかなジャズがラジオから流れる陳腐でも奇抜でもない
//
父が運転する自動車の後部座席に首をあずけて窓ガラスの外の水滴を見つめる 寄り目になっていると周りの車の赤いライトが視界に乱拡散し視界を赤く滲ませる凍る息のように
自分のための買い出しの用事に家族三人を付き合わせた帰り道、みな不満は言わない。
自分のための外出で自分ばかりが疲れているお金をたくさん使わせて一人で勝手にやりきれない 情けなく惨めな気持ちになっている
//
なんだか飽きてしまった。
飽きると私は孤独を感じた。
//
孤独になる場所は外が暗い夜に乗る帰り道の車中と雨の日
せまい車の中だから四人の家族は互いにすぐそばにいる
私は右後ろの座席で身じろぎもせず走り去ってゆくほかの車の光をこの目に入れる 焦点を合わせる手間を惜しみ視界の中にただ光が入るままにしている
ああどれもこれも気にせず去ってゆく家族でさえも結局は違うほうを見ていて孤独なのだ 振り返らない後ろ頭二つと手元に視線を落とす右横顔一つに目をやって
//
夜の家路を急いでいた、ある夏休みの高速道路の道すがらのこと。
ただ暗く先の見えぬゆるやかに曲がった渋滞の帯を乗せのろのろと続く高速道路 パーキングエリアにやっと着いて緩慢に駐車する四人家族の車
ちゃっちい券売機の食堂やコンビニとやけに清潔でハイテクで広いトイレが心に残った。
違う県の名産品ありきたりなキーホルダーありがちでお約束のサービスエリアの土産屋 それらが暗い高速道路を横目に見て立っている 外の渋滞からつかの間の息抜きとして次々やって来る買わずに見ている人たちで案外ごった返している 店の中 外の暗闇
夜の曇空は暗いサービスエリアの地上は照明で満たされきらきら光る商品がわらわらと置かれてあった
いかにもな仮り初め 盂蘭盆会の体温に満ちた夏祭のような活気 家族連れ 恋人 大所帯 バスのツアー客 皆めいめいに楽しげにあるいは真剣にあるいはゆったりと騒ぐ子どもをいさめつつ試食の箱を巡り渋滞中の短い休憩を満喫している 近くにいながら透明な膜で包まれたように努めて互いに気を留めようとはしない ああ人はたくさんいても結局は一人だ その感傷はうつくしく覚えておく価値があるものに思えた
//
サービスエリアの広くてハイテクで清潔だったトイレから出ると家族の姿が見当たらなかった 見当たらなかったので自動ドアを抜けチャームやストラップがずらりとぶら下げてある売店を見もせず浮遊し過ぎて向こうの出口から出る 待たせてある家族を探しながら
結局目をふと向けるまでもなく自動ドアを抜けた先でこちらを見て立ち上がる家族はいた向こうの自販機の傍に彼らは立っている私は何でもない顔、否、何でもない顔という顔をするまでもなく特に表情を動かしもしないで家族のもとへと歩き始める
//
夜風 風景は暗いが売店は過剰に照らされた再び暗い高速道路を走って数日ぶりの我が家へ帰る 夜遅く疲れ切った旅の終着として忘れていた家特有の匂いを新鮮に感じるはずの我が家へ
夜風 肌寒くてぬるい 家族はいるのに孤独だ。苦しくはないが遣りきれない。
夜風 波たつ心は確かにありしかし感傷的な鬱鬱はなくただ観察の対象となっていた 夜が暮れていくのを見ながら私は車に戻る。なにも構わないと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます