第66話 完璧
クロエ1822号と1730号、すっかりおなじみとなった2人は互いのプレイヤー情報を交換していた。
「1730号は微課金でエクレーラを出した感じ?」
「はい! もうかなり安定して課金してくれてますので、愛想をつかされないよう調整してます!」
「私の方はまた渋ってる感じなのよね? 今も以前のキャラ使ってイベントマップ攻略してるわ」
1822号の担当はスフィアの数を現状1,000を若干割り切る程度所持していた。前回のイベントで5,000個ほどあったスフィアを一気に吸い尽くしたわけだが、そこからまだ課金へは導けていない。
「なんていうか……、意地でも課金だけはしない、みたいな強い意志を感じるのよね。本当に手強いわ」
1822号は首を2~3度捻ってみせた。彼女の苦悩を何度も見ている1730号、お互いの担当プレイヤーがよく協力プレイをしているため、なんとか間接的に力になれないかと考えているのだが、なかなか策が浮かばないでいた。
「この時期は全プレイヤーのアプリ起動時間が下がる傾向にありますね……」
1730号はあたりさわりのない話をしながら1822号との会話を続けている。ノワール・グリモワール全体でアプリの稼働率が悪く、彼女たちも暇を持て余しているのだ。
「なんだかよくわからないけど、プレイヤー側の世界でイベントが多い時期みたいよ?」
彼女たちは夏に水着だったり、冬にクリスマスやお正月といった季節感の強いイベントを経験している。こうしたものがプレイヤー側の世界となにかしらリンクしているのは理解していたが、その具体的な内容までは把握していなかった。
「この時期って実はけっこう怖いのよね? ログインボーナスとかデイリーをきっちりこなしてる人が途絶えることあるから」
クロエシリーズの内輪で通称「完璧主義型」と呼ばれるプレイヤーのタイプである。ゲーム内の報酬を一切のもれなく完璧に受け取っていくのだが、それゆえなのか、一度受け取っていないときがあると、それを境にぷっつりとゲームをやらなくなってしまうのだ。
「あれはなんなんでしょうね? デイリーのスフィアなんて数は大したことないんですけど……」
「完璧に継続してることに意味があるんじゃない? 理屈や実益じゃなくて、自分ルールが大事なんだと思うよ?」
クロエ1822号はそう話しながら考えていた。実は非常に多くのプレイヤーがなにかしらの「自分ルール」に乗っ取ってゲームをしているのだ。
クロエシリーズのノウハウとして、課金誘導へのコツは自身が担当するプレイヤーの独自ルールを如何にして見抜くかがある。
『私の担当はどういう基準でスフィアを消費してるんだろう? 前回のガチャを考えるとやっぱりキャラの性能重視なのかしら? でも、それなら今回も手を出しておかしくないと思うんだけど……』
彼女の担当は今、かなり高額の課金を繰り返しているプレイヤーと組んでゲームをしている。最新キャラクターを持っていないことに劣等感を感じたりしないのだろうか。そんなことを頭に思い浮かべながら監視モニターをじっと見つめるのだった。
「あっ! そういえば1822号? コンシェルジュに追加された『例の機能』聞きました?」
「ええ、でもあれを『機能』って呼んでいいのかしら? それに気まぐれで『クロエ』にだけ実装されたんでしょう?」
「そのようですね! あくまで遊びの機能だからだと思いますけど……」
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