第61話 鉄人
ユージ『片桐さんからも数学の勉強方法教えてって連絡きたよ』
『2人とも必死だね(笑)』
シュウ『アキに負けると今後の学校生活で延々と煽られ続けそうだからな』
ユージと短文で雑談を交わしながら勉強方法について尋ねる。個別の問題の解き方については過去に何度か質問してきたが、勉強の方法そのものを尋ねたことはなかった。
ユージは「あくまで学校の定期テストの勉強方法」と前置きしたうえで、いくつかのアドバイスをくれた。
大雑把な言い方をすると、教科書にある長文の内容を丸暗記すること。英語力の勉強、という意味では疑問符が付くのだが、学校のテストでは非常に有効らしい。
あとは文章の構成を理解すること。これは口で言うほど簡単ではないが、長い文章でも修飾語が多いだけであって、構成のパターンは限られている。いかに不必要な単語を見分けてシンプルに捉えるかがポイントと言われた。
なるほど、人から教わると勉強の仕方も変わってくる。「覚える」、「理解する」は当たり前なのだが、そのプロセスに目を向けたのは初めてだ。
親にはなかなかこうした質問はできない。オレの場合、姉を頼ったらよかったのかもしれないが、なんとなくそれも気が引けた。
高校生になってから、半ば諦めたように勉強しなかった英語。今回のテストでいきなり高得点を狙うのはいくらなんでも無理だろう。ただ、数学と合わせてアキに負けない点数。これだけはなんとしてもクリアしたかった。
期末テスト初日、奇しくも数学Ⅱと英語Bは同じ日にあった。別の日に数学Bとオーラルコミュニケーションがこれまた同時にある。
これまでならテスト当日にも関わらず緊張感の欠片もないアキだったが、今日は眠そうにしながらテストが始まるギリギリまで参考書に目を通していた。
いつものオレなら「今日はこれから大雨か」と茶化すところだが、今回はこちらにも余裕がない。前後の席に並びながら、ほぼ無言でテストの瞬間を迎えるのだった。
「あー、とりあえず数学1つ終わった……。もうひとつ似たようなのがあるなんてホント吐きそうになるっての」
「オレも英語に対して同じ感情だよ。こんな大変なテストはいつ以来だろう」
「2人ともぐったりしてるね……、まだテスト初日なのに大丈夫かい?」
テストは1日2科目ずつしかない。昼前に今日の科目を終えてすでに疲れ切っているオレとアキのところへユージがやってきた。
ユージも人並みかそれ以上に勉強しているはずなのにあまり疲弊している感じはない。よくよく考えれば成績も良くて、目立とうとしないだけでスポーツもできる。それでいてアルバイトでお金を稼ぎ、ノワモワも最前線の強さを誇っている。この男は超人であり、鉄人なのかと今更ながら感心するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます