第46話 沼

 過去最高の10回の10連ガチャを続けて回した。だが、目的の「ホメ子さん」はまだオレの元に現れない。

 賢い人ならここで諦めるのかもしれない。だが、今日のオレは賢くなかった。ここで止めたら、費やした2,000個のスフィアが無駄になるような気がした。当たり前だが、スフィアを大量に消費すれば当たりが出やすくなるような仕組みは存在しない。


 それを頭で理解しているにも関わらず、さらにガチャを続けて回した。この心理はギャンブルで負けている人が、次の勝負で取り返す! とさらに高額を注ぎ込んで取り返しがつかなくなるのと同じ感じだろうか。


 オレが我に返ったのは、スフィアの所持数が3桁になった段階。つまり、20回もの10連ガチャを回した段階だった。ここまで回すとプレミアムキャラチケットも4枚手に入れている。当然、ガチャでSSランクキャラクターが排出されることもあったので、常設キャラクターはコンプリートした。合わせて、期間限定のキャラクターも3体手に入れた。


 しかし……。


 肝心の「ホメ子さん」は未だ排出されず、スフィアの数に終わりが見えてきた。これが俗に言う「爆死」だろうか? いや……、ユージから言わせれば、課金で手に入れたスフィアを大量消費して初めて「爆死」らしいが……。


 ここまで来ると、今度は「わずかなスフィアを残しても0になっても変わらない」みたいな謎の感情が湧いてくる。この感情もきっとギャンブルに似たものがあって、そうして人は素寒貧になったりするのだろう。



 最初のスフィア1,000個は、余裕をもった気持ちで演出をスキップしながらガチャを回していた。


 次の3,000個は徐々に苛立ちを積もらせながら、わずかなロード時間にも待ちきれず、画面を指で叩くようにしてガチャを回した。


 その先のガチャは……、祈るような気持ちと泣きそうな気持ちを併せ持った状態で、演出スキップもせず、じっくり一つひとつの結果をかみしめるようにガチャを回していった。



 結局、残りスフィア数が400を切り、あと1度しか10連ガチャを回せない段階になったところでオレは、常設キャラクターと今回の追加キャラクターの、をコンプリートした。

 そして、次の10連を回すとプレミアムキャラチケットが配布される。すなわち、次のガチャ結果に関わらず、あと1度の10連ガチャで必ずホメ子さんを手に入れることができるのだ。


 この確定状態を理解したうえで、オレは次の10連ガチャを回した。結果、ガチャではホメ子さんは排出されず、チケットの交換によってようやく彼女はオレのゲームデータに舞い降りたのだった。



 貯めに貯め続けたスフィア、それを失うにはあまりに短い時間だった気がする。ホメ子さんを手に入れた喜びよりも、画面に表示されているスフィアの所持数による喪失感の方が強かった。


 これが……、ガチャゲーの「沼」か。

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