第44話 人権キャラ
ステラシリーズとジェイドシリーズのがんばりによって無事にコラボレーション企画の期間限定イベントが実装された。――とはいえ、アップデート直後はさまざまな不具合が発生する。それに備えてステラシリーズは交代で休憩をとりながら、常に一定数は出動準備をしている。
クロエ ST-401-1822号は、プレイヤー観測用のモニターを見つめている。新キャラクターはすでに追加されている。しかも、性能は破格。彼女が担当するプレイヤーのスフィア所持数は5,000を超えている。
普通に考えれば、ここでガチャを引かないはずはない。はずはない……、と思っているのだが、彼女は弱気になっていた。
『過去のデータから、スフィアの所持数に対して優越感を感じるプレイヤーがいるのは知っている。このタイプだったら、ここでも貯め込んだままかもしれないわ……』
「1822号、大丈夫ですか? さっきからため息ばっかりですよ?」
近くにいたクロエ1730号が声をかける。1822号は自身のため息には無自覚だったようで、ハッとした表情を見せた。
「うーん、今回もフレンド周りはガチャ回してしっかり課金までしてくれてるのに、私の担当さんだけ全然スフィア消費してないのよ……」
クロエ1822号の声は明らかに沈んでいる。ウィリアムシリーズからの指導もあって相当参っているようだった。
「大丈夫ですよ! 過去のデータによるとフレンド間では、ゲームのプレイ期間が短い人ほど遅れてガチャを引く傾向にあります! きっと判断に迷って周りの出方を窺っている段階なんですよ!?」
1730号の話は、実際にゲームプレイヤーのプレイ時間やスフィアの消費数、コミュニティの形成時期から割り出されているデータであり、それなりの説得力があった。
ただ、今の1822号に必要なのはどんな励ましやデータよりも、実際にガチャを回してもらい、スフィアを消費してもらうことなのだ。
今回のガチャでもっとも性能の高いキャラクターは完全に過去のキャラクターを置き去りにしており、プレイヤー間では「人権キャラ」と言われている。このキャラクターの有無が協力プレイに参加する権利に相当するほど、他キャラクターとの差があるのだ。
そう言ったプレイヤーの世界の噂などの情報もシステム世界にはしっかり入ってくるのだ。
「『人権キャラ』か……、ここで利益を生み出せなかったら、それこそ私の人権が危うくなってくるわよ……」
完全に意気消沈しているクロエ1822号のネガティブ発言は続く。これには1730号も困り果てていた。
その時……。
「1822号、モニターっ! 10連ガチャの信号ですよ!!」
弾かれたような反応で顔を上げ、モニターを食い入るように見つめる1822号。その両手は祈るように力強く握られていた。
「さぁ! 引きなさいっ! こっちはもう準備できてるんだからね!」
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