今日は墓場までドライブしよう('Cemetery Drivers')

機乃遙

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     †


「なんでまたあんたに逢いにきたかって?」

 そんなこといくらでも理由はある。語り出したら、わたしには一千通りの言葉でそれを語る自信がある。

 このクソ田舎の、しかもインターチェンジからさらに一時間くんだり下道走らせて、そこまでしてきたワケ。

 鬱蒼と茂るすすき林の向こうに、あなたは静かに立ちすくんでた。もうあなたは、わたしに話しかけることもなければ、目で見て訴えることもしないけど。

 あんた昔からそうだったけどさ。初めて逢ったときも、黙って安物のmp3プレーヤーを突きつけるだけだった。

 風が吹いて、すすきの穂がどこかに飛んでいく。わたしはスプリングコートのポケットからピース・ライトを取り出すと、一本だけついばんで、マッチで火を点けた。本当はこのマッチ、線香でもあげるために買ってきたんだけど。そんなのもうどうでもよくなってたね。

「そうね、強いて言うならば。悲劇のヒロインぶっていると、自分が特別な存在な気がして安心するからよ。最愛の親友を喪った、可哀想な女に思えるから」


     †

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