アイデンティティ
彼はその日、とある資格の試験を受けにいっていた。資格を取ることは彼にとって自分のアイテンティティを確立する上での非常に心強い武器だった。彼はみんながギッとするほど多くの資格を持っていたが、その多くは包丁の横の爪楊子みたいにどうでもいいようなものばかりだった。彼はいつも「ボールペンの検定もってて、英検3級ももってて、ブルドーザーとボートを操縦できる奴は世界を見渡しても俺しかいないだろう」といった風な趣旨のことを周りに自慢していた。(彼は日本人ではないので英検についてはただの例えだが)
まぁ、これは非常にくだらないことであるし、彼も少しはそれをくだらないことだと自覚していた。
ただ、今回彼が受ける資格はそのようなものではなかった。それを取れば社会的にも認められて、昇進にも有利になる、といったタイプの資格だった。
彼はこれでもかなり勤勉な性格で、子供のころの学校の成績はいつもクラス1番だった。 彼は目的のためにはいくらでも努力することができる人間で、もちろん、プライドは高かったし、この試格にも人一倍気合を入れていた。
準備は万全だった。昨日は夜の9時に寝て、朝にはシャワーも浴びたのだ。落ちるわけがない、と彼は思った。この俺が落ちるわけがない。
しかしアクシデントは起きた。彼はいつものように乗っているセダンのアクセルを踏んでいた。信号が青になったのだ。
別に彼に問題があったわけじゃない、ただ
横から超高速のプリウスが突っこんできたのだ。
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