アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (7)

「救急隊は、魔法・心霊系への対抗措置を行なってる人達を呼んで下さい。それも、ありったけ。あと、搬送先は、その手の措置が出来る所」

 何とか、邪気に汚染された機動隊員達と、それ自体が「剣呑ヤバい異界への門」らしい悪霊に取り憑かれた動画配信者どもを大人しくさせる事が出来た。

 しかし、倒れてるのが二〇人以上……もっとも約半数は、ほぼ確実に助ける手段が無くて、残りの約半数はクソ重いボディ・アーマー着用。

 ボディ・アーマー着てる連中の内、かなりの数が、あたしが「気」を送り込んだ時に大型ハンマーで撲ったり、霊力を込めたスラッグ弾で撃たれたりで、そのボディ・アーマーが凹んでいる。

 加えて、霊感の無い奴には見えねえだろうが、辺りには、まだまだ、悪霊や魔物が飛び交ってる。

「あ……あと、救急隊員には、機動隊が着てる防護服の外し方を連絡した方がいいっす」

「ちょ……ちょっと待って、そんな救急隊員なんて……多分、居ない。仮に、居たとしても、こんだけの人数運べるほどは……」

 レンジャー隊の指揮官レッドは、そう答えた。

「えっ?」

「あと、搬送先を普通の病院にすると……やっぱマズい?」

「変な存在モンに取り憑かれてたり、邪気に汚染されてる連中を、普通ふつ〜の病人も居る病院に運ぶんすか? 何か有ったら、誰が責任押し付けられるんすか、それ?」

「そ……そう言われても……」

「でも、責任押し付けられて、詰め腹切らされんの、隊長さんかも知れねえでしょ」

「まぁ……そうだけどさ……。あ、ついでに……機動隊員とは、同じ警察でも、組織が違うんで……」

「あの……まさか……その……」

「防具の外し方が判らない。ウチで使ってんのと規格が違うんで。まず、県警に連絡して……」

「そっからは、ややこしいお役所仕事が始まって、ボディ・アーマーを外せる頃には、機動隊員は死んでる訳っすか……」

「大体、そう」

 クソ。

 少し前まで、警察が事実上機能してなくて、魔法使い系の自警団が警察の代りだった場所に住んでたんで……勝手が判んねえ。

 デカい組織じゃないと出来ない事も有るのは判るが……警察ってのは、あたしが前に居た「自警団」や、今の仕事先である通称「正義の味方」よりも、組織としてデカい分、どうしても動きが鈍くなるらしい。

 あと、相棒が「正義の味方」から独立した異能力持ちから構成されるレスキュー隊を作る為に色々とやってる理由も判った。

「兄貴〜ッ‼ 大丈夫ですか〜ッ⁉」

 その時、さっきまで、あたし達が居たのとは道路を挟んで反対側のビルから河童どもが出て来た。

 どうやら、通称「九州三大暴力団」は、どうも変身能力者や妖怪古代種族系が多いらしい。それも、河童系。

「全員、テイザーで応戦」

 河童系は皮膚が硬化してるらしく、拳銃弾は……ダメージが小さくなっちまうらしい。

 なので、レンジャー隊達は、テイザーガンを抜いて、射程距離まで近付く。

 河童どもは、狙撃手と着弾観測手だったみたいで……バカデカい狙撃銃を捨て、予備の拳銃で応戦。

 人数さえ揃ってりゃ何とか成る事はレンジャー隊に任せて……。

「ちょっと、今から……この騒動の原因を調べる。変な悪霊どもをバラ撒いてる奴が居る」

『大丈夫なの?』

 後方支援要員から当然の指摘。

「探るだけでマズい事になる可能性が有るけど……やるしか無いでしょ」

『その……悪霊をバラ撒いてる術者は、その近辺に居るの? それとも遠隔でやってんの?』

「それも判らねえっす……、って、待てよ」

 探るだけでヤバい相手を探んなきゃいけねえ……でも……手は有る。

「あの〜」

 あたしは、河童どもを鎮圧をほぼ終えてるレンジャー隊に声をかける。

「何?」

「容疑者を1人か2人、使っていいっすか?」

「使うって……何に?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る