アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (2)

 1分足らずで、鎮静剤は効き始めた。

「おい、この薬、本当に大丈夫なヤツか?」

 ドラマやマンガでしか見た事が無いような、とんでもない即効性の効き目に、思わず相棒に確認。

「効き目は早くて後遺症はほぼ無し。興奮作用その他の鎮圧の邪魔になる副反応も無し。お前の古巣にもおろそうか?」

 その時、妙な事が起きた。

「変だ……剣呑ヤバい気配が薄まってる……」

「へっ? じゃあ、この男が元凶なのか?」

「ちょっと危険だが……調べてみる」

 この手の心霊現象やら、他の魔法使い系や心霊能力者系やらの力量やらを調べる方法は、大きく分けて2つ有る。

 1つは……対象ターゲットから放たれる「気」「霊力」「魔力」なんかの力を何もせずに「る」事。

 もう1つは……同じ「みる」でも、あたしの流派では「る」って言われてる方法だ。仏教の観音菩薩とかの「観」。

 こちらから、「気」「霊力」なんかを放って、相手の反応を観察する。

 もちろん、「観る」方が得られる情報は多い。

 でも……悪霊とか魔物は「視える」奴に引き付けられる性質が有る。ましてや、相手に積極的に干渉する「観る」だと、対象ターゲットが余程のニブチンでも無ければ「観られてる」事に気付かれる。

 人間(広い意味で)を「観た」場合、相手が、その手の能力・技能を持ってない単に勘が鋭いだけの奴でさえ、気付かれる場合も有る。

 あたしは慎重に「気」を放つ。

 周囲の悪霊が、あたしの存在に気付いたようだ。

 腰のポーチから、万が一の場合に使う呪符を取り出す。

 悪霊どもの「密度」が「濃い」方に気を向ける。

 そして……見付けた……「門」。

 悪霊やら魔物やらが住んでる異界への出入口。

 それは、少しづつ萎み始めてたようだが……あたしの「気」が干渉したせいで……再び大きくなり始め……。

 探査用の「気」の放出を止める。

 代りに、呪符を握ってる手に「気」を込め、呪符の効力ちからを発動させる。

 そして、呪符を周囲に撒き散らす。

 この呪符からは……「怯えている人間」のモノを模した気配を放つ。

 そして、悪霊や魔物は「怯えてる人間」に引き付けられやすい。

「オン・マリシエイ・ソワカっ‼」

 続いて、隠形の呪法の本尊である摩利支天の真言を唱え、「門」の周囲に結界を張る。

 気配を隠す結界……ただし、「」だ。

「応急措置だが、しばらくは、これで十分な筈だ」

「何が起きたか判らんが……」

 霊感ゼロの相棒は、あたしが、どんだけ凄い活躍をしたかを認識出来ない。

「その男は……警察に引き渡したらマズい事になるのか?」

「へっ?」

「そいつが目を覚ましたら、また、ここで起きてたのと同じ事が起きる可能性が有る訳だろ?」

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