ニルリティ/高木 瀾(らん) (2)
「想像でいいから、教えてくれ。ドローンが撮影した1人だけ生きてる男は、何で生きてる?」
「
事態をマシにするには「魔法」や「霊的災害」関係の知識を持った者が必要。
でも、下手に「魔法」を使うと……探知系なんかでさえ……術者の身が危ない状況のようだ。
「ってかさ、お前、視えてないから判んないと思うけど、応援が来るまで……1人で何かやんのは……ガチで怖いんだぞ、ここんビルん中はさ……」
なるほど……。
市街地に「そこそこ程度の術者1人では対処困難な心霊災害区域」が突如出現した訳か。
苦手な状況だ……。
私は、その手のモノに、結構な耐性が有る……らしい代りに、その手のモノを認識出来ない。
ほんの1年足らず前までは、多少の「霊感」は有ったが……私には、既に「護国軍鬼」着装による副作用が出ているようだ。それも「護国軍鬼」の過去の着装者達より、遥かに早く。
護国軍鬼を着装していない時でも……「霊感」が、どんどん衰えていっている……ようだ。
加えて……私は……生まれ付き「恐怖」という感情を欠いているらしい。
その特性は、戦闘では有用な場合も有るが、誰かを救助する場合は、救助対象の「恐怖」の感情を理解出来ない事につながる。
もちろん、後から理屈で考えれば理解出来るが、とっさの場合の直感的な理解は困難だ。
いわゆる「ヒーロー」「正義の味方」になろうとしたのに劇的な理由が有る訳じゃない。
たまたま、小さい頃から、身の回りに居る自分の手本となる大人達が「誰かを救う者」達だっただけだ。
幼稚園の頃の夏、親や親類が急に居なくなった事が有った。後になって、自分の身の周りに居た大人達が、富士の噴火によって壊滅した旧首都圏への救助活動に行っていた事を知った。
その時こそ、自分が「将来の夢」らしきものを得た時、たった1つとは言え、常人が持っている感情を欠いていたせいで、灰色に見えていた世界が、初めて鮮かで美しいものに見え始めた時だったように思う。
しかし、思春期を迎える頃には、自分が成りたかった自分とは逆のモノと化している事に気付いた。
「どんな手段を使ってでも誰かを救う」のに向いた人間ではなく、「どんな状況でも自分だけは生き残る」のに向いた人間に。
たった1つだけの努力で身に付けたモノじゃない、異能力とさえ呼べない些細な「能力」のせいで……。
やがて、この「事象」の発生現場らしい最上階に辿り着く。
「あああ……」
完全に錯乱している男が1名。
自分の体は小さい癖に、伯父貴が、とんでもない大男のせいで……まぁ、この男は世間一般の感覚では「かなりガタイがいい方」なんだろうが……どうしても、この程度の体格だと「小柄」と認識してしまう。
悪いクセだ。
「私が押さえてる。こいつの瞳孔を撮影してくれ」
「がっ?」
私は、そいつの背後に回り……。
力で抑えてるのではない。しかし、術理を知らなければ外せないような抑え方。
それで、私からすると小柄な男、世間一般の感覚ではガタイがいい男の動きを封じる。
「があああ……」
ただし、この抑え込み方の欠点は……体の各部に激痛が走る事。
相棒が、そいつの頭を両手で掴み……まったく、ここまで色気皆無の「顔と顔が近付く」なんて見た事もない。
相棒のヘルメットのカメラが、そいつの目を撮影。
即、後方支援チームから画像解析の結果が返って来る。
『違法薬物を摂取している可能性大。ただし、種類などは不明』
「役に立つのか……ビミョ〜な解析結果だな」
『目の画像だけでパターン識別するのに無理が有る。この結果も絶対とは思わないでくれ』
相棒のボヤキに対して後方支援チームから当然の指摘。
「想像でいい。薬物と霊的存在。どっちが原因でトチ狂ってると思う?」
「さてな。ここは……その手の事を調べる為の『魔法』も迂闊に使えん」
「鎮静剤を打っても問題ないか?」
「それも判断が付かん」
「やれやれ……私が、このまま抑えてる。頼む」
「ああ……」
相棒はポーチから注射器を取り出し……。
「おい、後方支援チームに確認してもらう手順だろ」
「おっと……おい、この注射器、鎮静剤で間違いない?」
『間違いない』
注射器が入っているパッケージに印刷されているコードを読み取った後方支援チームから応答。
その応答と共に、相棒は男の首筋に注射針を突き刺した。
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