よっつ 無藤家
4 - 1 明星
Xビル──ああ、私が所持している、あの。あそこにはFree Life Liveという名前がちゃんとあるんですけどね。それを勝手にXビルだなんて禍々しい名前を付けて、心霊スポットみたいに書き立てて……あなたが記者なんですか? 営業妨害にもほどがありますよ。今じゃうちのクラブやライブハウスに出演を希望するラッパーもバンドもほとんどいない。商売になりゃしない。いい迷惑なんですよ。その上自宅まで押しかけて来るなんて。
は? 弁護士? ……記者、いや、(と、ここで無藤明星は手元の名刺にようやく視線を落とし)響野さん、か。あんた最初から揉めるつもりで来てるんですね。分かりました。そっちがそのつもりなら私も徹底的にやらせてもらいますよ。あんたがうちのビルに対してあることないこと書き立てた媒体は月刊海音でしたよね。売れてる雑誌だし、うちの嫁も毎月買ってるから知ってますよ。こちらも弁護士を立てて対応させてもらいます。結果、あんたの仕事がなくなったとしても──
え? うちの嫁がなんですって?
名前?
灰沖? ああ、亡くなりましたね……私は多忙で葬儀に出られなかったけど、初子は東京まで行ってましたよ。何せたったふたりのきょうだいですからね。でも弁護士さん、なんであんたがそんなこと。
そうですよ。たったふたり。私と灰沖──
──初子に会いたい? 何勝手なこと言ってるんですか? 一方的に押しかけてきたあんたたちに対して、ここまで誠実に質問に答えてやってるんだ。満足して帰ってくださいよ。ああ、それから、Xビル──渋谷のFree Life Liveについてですけど、記事に書いた女の幽霊は存在しないってきちんと訂正記事出してくださいよ。本当に迷惑だ。
──灰沖が死んでいるのに? それ、何か関係あるんですか? 国広は自殺だったんですよね? 家にも刑事が来ましたよ。それに葬式に行って遺体を見てきた初子だって、病気や事故じゃなくって、あんな死に方……ってひどく落ち込んでいました。あんな死に方、ってことは、つまりそういうことでしょう? そうだ、記者、あんたがあんな記事を書いて国広を追い詰めたからあいつは死ぬことを選んだ。そういう可能性があるとは思わないんですか? 記事を書いたあんたにだって、責任はあるはずだろ? 幽霊が出るとかいう話がSNSでバズって、上のフロアの客が少なくなっても国広はきちんとバーの営業をしていてくれたんだ。それを、何度も何度もあいつのところに取材だなんだって押し掛けて……俺は一応あのビルの持ち主だからな。国広から毎回報告は受けてたよ。
──は? 息抜き? なんだよそれ?
井戸? そんなもの知らない。あったら気付くだろ、俺じゃなくて現場の人間がさ。そんなところまで俺の責任にしたいのか? 鵬額社も落ちたもんだな、おまえみたいな──チンピラ記者を使うようになるなんて。鵬額社っていったら新聞も発行してるし、かなり信頼できるメディアのひとつだと思っていたけど、どうやら俺の買い被りだったみたいだ。
さあ、とっとと帰ってくれ。おまえらと話すことなんかもう何もないよ。
何? 姉の名前?
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