第34話 幼馴染
(アンデットになった今なら分かる。死霊魔術の可能性)
メイネが天使と同化したルプスを見つめる。
(ルーちゃんの魂も、天使とかいうやつの魂もない……)
本来なら存在する筈のそれが、なかった。
(だったら……!)
かつてシュレヴから聞いた死霊魔術の最終地点。
『その力は死したものの魂を自由自在にできる。そしてその極地は擬似魂の創造だ』
(擬似魂をルーちゃんに埋め込んで自我を呼び戻させる……!)
ぶっつけ本番。
上手く出来ても、思った結果が得られるとも限らない。
ルプスとしての自我を持つ別の魂は、果たしてルプスと呼べるのか。
それでもやるしかなかった。
「まずはあの翼を、折る……!」
機動力は削いでおきたい。
メイネが近づくと、何故か今まで沈黙を貫いていたルプスが首を回しギョロっと底冷えする眼を向けた。
「アクセス、
ルプスが抑揚の無い声で呟く。
すると、
ルプスが手を握り締めると、白い杭が一斉に
「
メイネが叫ぶと、
飛膜や胴体を杭で貫かれるも、
「
「アクセス、広範囲殲滅」
ルプスの正面に白く輝くエネルギーが集まり球体を作る。
あまりに高密度の力の塊からは、パチパチと火花が散っていた。
「あれって……」
メイネはなんとなく既視感を覚えた。
それはアニカの……。
「まっず……!」
メイネが危機を感じた瞬間、一点に集約されていたエネルギーが解き放たれた。
メイネは天高く跳躍し、間一髪のところでそれを避ける。
一方で
エネルギー波で体が焼けたそばから再生し、青く燃える不死の飛竜がルプスに迫った。
すれ違いざま、ルプスの翼に斬撃を浴びせる。
ルプスの翼が欠け、羽根が舞う。
更に
翼は見た目通りの硬度ではないのかガリガリと鉄のような音を立て少しずつ翼が削られていく。
ルプスが仰向けに落下し始めた。
しかし、ルプスが天へ向けた手から白い粒子が放たれる。
空から粒子が降り注ぎ
毒物を浴びた様に皮膚が溶けていた。
だが
青い炎を纏い、煙を巻き上げながら翼を貪る。
時を同じくして上空から旋回してきた
ルプスを掴んで急降下し地面に叩きつけた。
「今……!」
落下しながら見ていたメイネ。
この好機を逃す訳にはいかない。
「
現れた
弾丸の如き速度で地上に迫る。
拘束されたルプスに着弾すると跨り胸元に手を当てる。
「うぐっ!?」
だがルプスに触れた途端、膨大な情報がメイネの頭を駆け巡る。
脳が焼き切れそうな程の、アンデットの体すら蝕む精神的苦痛。
メイネの世界がぐらつき赤く滲む。
「かはっ」
涙のように血が流れ、噛み締めて抑えようとしても口から血が溢れる。
しかし、
(ここで手、放したら……!)
メイネは一歩も退かない。
助けを求めて母に伸ばした手。
助けたくてルウムに伸ばした手。
どちらも届かなかった。
あんな思いをするくらいなら。
(絶対に、はなさない……っ!)
「
血を吐きながら紡がれた呪文。
魔導書から一帯を覆い尽くすほどの紫黒の輝きが放たれメイネとルプスを呑み込んだ。
ルプスの空になった器にメイネのこれまで培ってきた死霊魔術の全てを叩き込む。
これまでの魔術は死者の魂への干渉だった。
今行っているのはその集大成である一からの創造。
膨大な魔力が荒れ狂う様にルプスへと流れていく。
魔力と血液、生命の源がメイネの体から抜けていく。
「……っ!?」
メイネが違和感を覚える。
本来なら魂が収まるべき筈の場所に、まるで根を張る様に白い何かが張り巡らされていた。
地面から生えてルプスと繋がっている白い何かと同じものだろう。
(外側じゃ無理だったけど、ここなら!)
白い何かはメイネの全力の一撃でもびくともしなかった。
けれど、死霊魔術の領域なら。
「はぁぁぁぁっ!」
擬似魂の構築には不要な不純物を排除することもできる。
白い根のようなものが、青い炎で焼かれていく。
炎は内側で燃え広がりやがてルプスの背に抱きついている白い翼の生えた人形が焼き切れた。
堰き止められていた魔力が一気に流れ込み、強い輝きを放つ。
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えなメイネの手からルプスの体が離れ仰向けのまま宙へと浮かぶ。
「
そして全ての始まりの呪文を唱えた。
紫黒の光が立ち昇りルプスを覆う。
光が晴れるとそこには狼の耳と尻尾が生えた愛らしい少女の姿。
ルプスはきょとんとしていたが、血溜まりに倒れているメイネを見つけて血相を変える。
「メイっ!?」
まだ体を思う様に動かせないのか足を凭れさせなが駆け寄る。
優しくメイネの背に手を回して抱き起こした。
「こんなの死んじゃうよ、メイっ!」
メイネの悲惨な姿にルプスが涙を溢す。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
あの時。
メイネが村から追い出された時。
「私が、メイを怖がったから……!」
ルプスが手を差し伸べなかった所為で起きた未来。
ルプスにはそう見えていた。
「けほっ……実はもう、死んでるんだけどね……」
メイネは咳き込みながら冗談めかす。
「ルプスは、変わってないなぁ……」
一糸纏わぬ姿の幼馴染。
そのある一点、いや二点を見てからかう。
「? 何言って……」
疑問符を浮かべ言葉を続けようとしたルプスの意識が途切れてメイネにのしかかる。
アンデットになったとはいえ、精神への負荷が相当大きかったのだろう。
「ぐわぁ」
急に幼馴染が襲いかかってきてメイネから変な声が出た。
メイネももう限界だった。
ルプスに対抗する力も残っておらず、仰向けに倒れた。
意識を手放す寸前に見たのは、山より巨大なのではないかと疑う程に大きな二体の化物。
魂の感じられない方はおそらくプテラなのだろう。
蜘蛛のような複数の単眼。
口の端に大きな牙が一本生えただけの別の口があり、三つの口が連結している。
四つ腕の下二本がやけに発達しており、手首から肘にかけて蝙蝠のような翼膜が生えている。
四つ腕と二本の足で立つ獣の様なそいつは、
仮にメイネとイルティアが協力したとしても勝てるかどうか怪しい。
そしてもう一体の化け物。
竜の頭部には燃える様な真っ赤な瞳。
龍の腕は伸ばせば山をも掴めそうな程に強大で、その鉤爪を一振りすれば王都全域が崩壊するだろう。
さらに宙に浮かぶ化け物の腰から下は無数の龍の首が生え、不気味に蠢いていた。
「あいつ、ほんとに化け物じゃん……」
メイネはその光景を最後に意識を失った。
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