第30話 アンデットガールズ
「ロトナっ!?」
アニカが思わず叫んだ。
メイネは頭に疑問符の浮かんだ様な顔で声のした方を見る。
「……何その怪我!? なんで来ちゃったの!?」
アニカの抉れた肩を見て慌てて駆け出す。
「おっと、それ以上近づいたら……」
側にいたサトギリがアニカに手を伸ばす。
だが。
「邪魔」
サトギリの体から複数の刃物が生え、勢い良く回転し体中を断ち切った。
「
メイネに対抗しようとしたサトギリだが、上手く魔術が起動せず身動きが取れずにいた。
「大丈夫!?」
サトギリには見向きもせず、メイネがアニカに駆け寄った。
「遅いのよ、ねぼすけ。余裕に決まってるでしょ」
アニカが強がって体を無理矢理に起こす。
左肩から血が滴り体を伝って床を染め続けていた。
「じゃあ傷つついてもいい?」
「やめなさい!」
指を近づけるメイネ。
アニカはすっと左肩をメイネから遠ざける。
「一人で来たの?」
「……イルティアと」
「はぁ!? なんであんな奴と!?」
メイネは嫌そうに顔を顰める。
サトギリより余程戦いたくない相手だ。
励まそうとしたのか狼がメイネの顔をペロペロと舐めて、更に表情が険しくなる。
「色々あったのよ」
「ってことはあいつに騙されたの?」
「なんでそうなるのよ?」
「あいつが味方にいて、こんな奴らに負ける訳ないじゃん」
嫌いだが、対等に渡り合ったメイネが誰よりもイルティアの実力は認めている。
アニカは一瞬ぽかんとしたが、すぐに納得した様だった。
「……イルティアの仲間や家族を人質に取られたのよ。それで、イルティアは殺されたわ……」
アニカが言いにくそうにしながらも指し示す。
その先をメイネが目で追い、倒れたイルティアを見つける。
「はぁ〜!? ちょっと起こしてくる!」
プリプリと怒った様子のメイネ。
大きな足音を立てながらイルティアの死体へ向かう。
「何する気よ!?」
アニカも慌ててついていく。
道中メイネは何もしていない様に見えた。
しかし次々とアンデット騎士たちの両手、両足の皮膚が繋がり身動きが取れずに倒れていく。
余裕の出来た狼の群れが命のある騎士数名を組み伏せた。
そしてメイネがイルティアの死体の傍らで立ち止まる。
「こんなところで無責任に倒れて、良いご身分ね!」
柔らかな表情で倒れるイルティアを見てメイネは悪態をつく。
「
紫黒色の魔導書が輝き、イルティアの下方から光が立ち昇る。
「
続けてメイネが魔術を行使する。
魔導書が青く輝き、同じ色の光がイルティアを包み込んだ。
やがて光が消えると、事態に戸惑うイルティアが立っていた。
「私は、生きているのか……?」
何度も自らの手を見つめ握り直す。
「嘘……」
確かに致死量の血を流していたイルティアが平然と立っているのを見たアニカは驚きで口元を手で押さえる。
現状を把握しようとする二人。
しかしメイネは空気を読まずイルティアを思いっきりビンタした。
「「!?」」
パァンと小気味良い音が響く。
「私の友達を連れて来たんならちゃんと責任持って守り抜いてよ! 何勝手に死んじゃってんの!? 怒った振りして一人になった意味ないじゃん!」
イルティアが呆けてメイネを見つめた。
叩かれて赤く染まった頬を撫でる。
「す、すまない……」
メイネの剣幕に思わず謝ったイルティアだが、
「……じゃない! 君は殺されたんじゃなかったのか!? アニカ嬢は!? 皆は!?」
周囲を確認する。
メイネを見つめ涙ぐみ、頬を朱に染めて胸に手を当てるアニカ。
立ったまま動かぬイルティアの両親。
倒れた騎士たち。
狼の群れ。
バラバラになったサトギリ。
「私は殺されたけど大体は無事なんじゃない? たぶん変わったのはあんたがアンデットになったくらい?」
メイネは死んでいた時の記憶がないので正確には分からない。
「待て、わ、私はアンデットなのか……?」
聞き捨てならない言葉が。
「そうに決まってるじゃん、死んだんだから」
「……なん、だと」
イルティアが愕然とする。
「しかしアンデットとはこんなにも意識がはっきりしているものなのか? 私が見てきたアンデットには、とても理性があるとは思えなかったが……」
「私が生前の自我を魂に呼び戻させる魔術を使ったからね」
メイネは、けろっと言ってのける。
「それ本当!?」
横で聞いていたアニカがメイネに詰め寄る。
「……本当だけど」
その勢いに、メイネが少し距離を取る。
「アンデットの怪我ってロト……貴女は治せるのよね」
ロトナが偽名だというのを思い出して言い直す。
「うん」
「アンデットは貴女の命令には逆らえないのかしら?」
「? ……たぶん」
メイネには、何故アニカがそんなことを聞いてくるのか理解できない。
首を傾げながら答える。
メイネ自身、正確に把握できていない。
特に生前の自我を与えたアンデットがどうなるかまでは。
「なら貴女の生み出したアンデットのことは信用しているのよね?」
アニカが聞く。
メイネは少し考えると横目でイルティアを見て指をさし、
「こいつ以外は」
と答えた。
イルティアが少々ムッとする。
「そう」
アニカはそう言うと、アンデット騎士の落とした剣を拾う。
「それなら、私をアンデットにしなさい!」
高らかに言い放ち、自分の心臓を剣で貫いた。
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