第28話 関係
「お母さん、お父さん……」
イルティア自身、困惑が大きく感情の整理がついていない。
しかし、こんなことを望んではいなかった。
アンデットと化した両親との再会なんて。
「どれだけ人をバカにすれば気が済むのよ!」
アニカが我慢できずに叫ぶ。
「元々バカじゃんオマエら。弁えろよ」
サトギリが侮蔑の混じった目を向ける。
「イルティアに死ねと言わなかったのは、無茶言って暴走されても困るから。イルティアに君の相手をさせず僕が自ら相手してるのは、君との戦闘にリスクが無いから。詰んでんだよ、オマエら」
現実を突きつけた。
それでもアニカは怯まない。
「あんたは合理的に動かない人を見下したいらしいけど、それって怖いから? ロトナを殺したのもそういうことかしら?」
「いちいちうざいな、それを殺したのは僕の脅威足り得る存在だからだ」
更にサトギリは何が可笑しいのかニヤニヤする。
「あとそれの名前だけど、ロトナじゃないよ。魂と合致しない。オマエは助けに来たんだろうけど、偽名を使われるなんてどれだけ信用してなかったんだろね。そんな奴の為に命かけてるなんて笑える」
アニカからすれば、驚愕な事実だろう。
自然、手に力が入る。
「私が信用されてないことくらい分かってたわよ! だって、あの子が私の名前呼んでくれたことなかったから!」
だがアニカは薄々勘づいていた。
漠然とした感覚でしかなかったが。
「普通に話してる様に見えて距離作ってるのだって分かってたわ。でもそれが私だけじゃなくて誰に対してもそうだって気づいたから!」
倒れるメイネを見る。
昂った感情が更に上へ。
「待っていたの! あの子の気が向いた時、いつでも応えられるように!
……それなのに!」
魔力が足元で爆発したかのように放たれる。
「あんたが、邪魔!」
凄まじい推進力でアニカがサトギリに肉迫する。
「あーあー、熱くなっちゃって。近づくのは悪手だって気づけよ。
サトギリがアニカの接近に合わせて体から棘を生やす。
体を捻り軌道を変えるアニカ。
不規則な動きで翻弄し、次の手を予測させない。
「蝿かよ」
サトギリが鬱陶しそうに目で追う。
アニカの軌道を追って伸び続ける骨の棘。
アニカが勢いを落とし、骨の根元付近へ落下。
衝撃波で骨を根元から砕いた。
更にアニカの死角を狙って足から伸ばされた棘を兵器で殴って破壊し、サトギリに銃口を向けた。
サトギリが兵器を迂回して四本の棘を伸ばす。
僅かに速くサトギリの棘が届き、アニカの四肢を貫く。
それとほぼ同時にアニカの魔力収束砲がサトギリを包み込んだ。
骨の棘が焼け切れる。
煙が立ち込め、棘が刺さったままのアニカが兵器を背負い直す。
今回は直撃だった。
これでダメならアニカには打つ手が無い。
緊張の面持ちで煙が晴れるのを待つ。
やがて煙が引いていく。
「バァ」
サトギリが立っていた。
殆ど損壊も見られない。
余裕綽々といった態度でアニカを嘲る。
「オマエの手札で僕を倒したいならそうするよね、でも残念」
サトギリは自らのローブを広げる。
「これさ、最近見つかった魔力を通さない素材でできてんの。だからさ、どう頑張ってもオマエの攻撃は効かなかったんだよ。お疲れさま」
そう言うと突然サトギリがバラバラに砕け散った。
「は?」
戸惑うアニカ。
落ちたサトギリの口元が歪む。
「
サトギリの体の修復が始まる。
最も大きなパーツを元として。
それはアニカの左腕に刺さったままの棘だった。
アニカの左腕を紫黒色の球体が包む。
「……え?」
内部で修復が始まる。
サトギリの体が構成されて、重なった空間に存在したアニカの左腕が千切れた。
その傷はあまりにも深く、肩口まで抉られていた。
アニカの絶叫が響き、籠手を嵌めたままの腕が床に落ちる。
傷口から夥しい量の血液が溢れて広間を赤く染める。
汗を流し激痛に耐えるアニカを、側で構成されたサトギリが覗き込んでいた。
「あと三本」
追撃を仕掛けようとするサトギリ。
その時サトギリの横から炎が迫った。
サトギリが舌打ちをして後方へ飛び退いた。
イルティアがアニカに駆け寄って、その体を支える。
満身創痍のアニカを見て、イルティアの肩が震えた。
「すまない……私が不甲斐ないばかりに……」
「不甲斐、なくはあるけど……貴女の所為では、ないわ」
アニカが荒い息遣いで応えた。
「え、何やっちゃってくれちゃってんの?」
不快さを全開にしたサトギリ。
一体のアンデット騎士の頭部が弾ける。
「貴様!」
「はい、オマエの所為」
そしてまた一体、頭部が弾けた。
イルティアが歯噛みし、既に殺されアンデットと化した仲間たちと、まだ生きているアニカを見つめる。
彼女にとって究極の天秤。
人に優劣をつけることを良しとしないイルティア。
しかし手の中にいる少女を守る為に、その志を必死にへし折ろうとしていた。
「やるしか、ないんだ……」
自身に言い聞かせ、アニカを壁に寄り掛ける。
「……まだ戦えるわ」
「休め」
強がるアニカを背に庇い、イルティアがサトギリと対峙する。
「メンタル雑魚の癖に、一丁前に決心とかしちゃった?」
試すようにサトギリがアンデット騎士を、イルティアの両親を盾にする。
「……っ! すまない!」
イルティアが、翳した手から炎を放つ。
アンデットが業火に包まれた。
サトギリが忌々しそうに舌打ちする。
しかし、その炎はいつまで経ってもアンデットたちを灼くことがなかった。
イルティアも、サトギリも。
予想もしていなかった。
互いに、その現象を見ていた。
「何故……」
少ししてサトギリが吹き出す。
「なるほどね、オマエの炎が効果を発揮するには条件がある。対象に敵意を持つ、とかか? 前に家族は燃やしてたこと考えると、放つ瞬間に判定がある? まあなんでもいいけど」
腹を抱えて嘲笑う。
「決心なんて全然できてないじゃん。だっさ」
サトギリの分析を聞いたイルティアが戸惑う。
今まで敵意もなく力を行使したことなんて無かったから、気付きもしなかった。
悪を、果ては望んでいなかった家族すらも灼いた炎。
それが今、何者をも灼かず中途半端にただ揺蕩っていた。
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