第14話 アニカ強化計画
「今日からここがロトナの部屋よ!」
諸々の話を済ませた後、メイネにあてがわれた部屋はかつて暮らしていた
アニカに続いてメイネが部屋に入り、キョロキョロと見回す。
「ひろ」
「? そんなに大きい部屋じゃないわ」
メイネは、不思議そうに首を傾げるアニカの頬を軽くつねった。
瑞々しい肌がふにゅんと歪む。
「いふぁいっ!? なんでよ!」
「……なんとなく」
「なによ、もう」
アニカが赤くなった頬を摩る。
「本当にアレボルと同じ部屋で良かったの?」
「うん」
「ロトナがいいならいいけど! 必要な物があったらメイドか私に言いなさい!」
「はーい」
メイネが間延びした返事をする。
「私はやることがあるから行くわね!」
「ばいばい」
アニカが部屋を去ると、メイネは部屋を隅々まで入念に調べた。
「罠も監視の為の穴もなし、と」
一安心したところで、紙袋からドーナツを取り出す。
アニカから逃げている時に購入したものだ。
「うま」
もきゅもきゅとよく噛む。
ドーナツを食べ終えると上着を脱いでベッドに転がる。
ずっと隠していた狼の耳を出して解放感に浸る。
「やわ〜」
人馬の村を出てからは野宿続きだった。
お貴族様の高級ベッドの気持ち良さに、瞼が蕩けて眠りについた。
翌朝、まだ眠っているメイネの部屋の戸が激しく叩かれた。
「ロトナ! 魔力を集める方法を考えるわよ! 起きなさい!」
朝から元気いっぱいのアニカ。
しかし部屋からの返事はない。
「もう朝よ! 起きなさい!」
ドンドンと戸を叩く。
耐え兼ねたアニカがドアノブに手を掛ける。
「あら?」
だがメイネは小賢しくも鍵をかけていた。
いくら捻ってもガチャガチャと鳴るだけで戸は動かない。
「ロトナ!! 起きなさいったら!!」
更に声を張り上げて戸を殴る。
何度も戸を殴り蹴り呼び掛けていると、急に戸が開きアニカの顔面にぶつかった。
「いった!?」
おでこを押さえる。
「うるさいなぁ……まだ朝じゃん」
メイネが寝ぼけ眼を擦りながら不満を漏らす。
「もう朝……よ……」
アニカが言い返しながら、メイネを見て言葉を詰まらせた。
何故なら、
「その、耳……!」
メイネに狼の耳が生えていたから。
「ん……っ!?」
漸く寝ぼけていたメイネが自分の失態に気づく。
フードを被り忘れていた。
さっと手で耳を隠す。
「ロトナってワー……」
何か言いかけたアニカの口を塞ぎ、強引に部屋へ引き入れた。
バタンッと戸が閉まる。
「……っぷは、なにすんのよ!?」
「しー」
声を荒げるアニカに、メイネが人差し指を口に当てて静かにする様に伝える。
アニカの声が大きいのは平常運転だが。
「……なんで
声を抑えて過ぎてコソコソとアニカが訊く。
小さな音でも届く様に二人の顔が近づく。
「色んな人に目を付けられそうでしょ」
メイネもつられてヒソヒソと喋る。
護衛として、仲間として。
側に置きたいと思う者は後を絶たないだろう。
「それもそうね」
確かにとアニカが納得する。
しかし正体を隠す本当の理由は別にある。
人の社会で暮らしている他の
「だから、このことは秘密にして」
断られたらアニカとはこれっきりだな、と思いながらお願いする。
「いいわよ」
即答だった。
「ロトナの種族がなんだったとしても変わらないもの」
そう付け足す。
「……そう」
メイネが目を逸らしてそれだけ言う。
「そうだ、私の魔力を集める方法を相談しようと思ってたんだった」
アニカが部屋を訪れた目的を思い出す。
「朝ご飯は?」
ついさっきまで熟睡していたメイネ。
まず食事を摂りたいらしい。
「私はもう食べたわ」
「私はまだなんだけど」
「じゃあここに持って来させましょう」
アニカは部屋を出て近くにいたメイドに言い付けた。
そしてメイネが朝食を食べながら話が始まる。
「美味」
メイネが、上品なカトラリーと、大きな器に少しだけ盛られた食事の高級感に酔いしれる。
「ロトナはなにか思いつく?」
「なんの話?」
「さっき言ったじゃない! 私の魔力を集める方法よ!」
アニカがテーブルを叩く。
「ああ、それね」
「あなたね……!」
アニカにとっての最優先事項だ。
メイネにジト目を向ける。
「良い考えがある」
「本当でしょうね?」
メイネは自身が有る様だ。
しかし先程まで忘れてるわ話を聞いていないわで、アニカからすれば疑わしい事この上ない。
「魔力を通さない物質があるっておじさんが言ってた」
「おじさんって誰よ?」
「ルイっていう
「
思い出しながら話すメイネと、一人で納得するアニカ。
「それにしても魔力を通さない物質なんて聞いたことないわ!」
「おじさんも珍しいから実物は見た事ないって言ってた」
「無いんじゃ意味ないじゃない!」
期待していたアニカが嘆く。
「探したら?」
「そんなのがあるなら私が知らない訳ないわ! 誰だって欲しがるもの!」
用途など幾らでも考えられる。
そんな物質がこの国に存在するなら、辺境伯の娘であるアニカの耳に入らない筈がない。
「森の深くにある耐魔樹って木から取れるらしいよ」
「……え、本当にあるの!?」
「知らなーい」
メイネも聞いただけだ。
「その物質があったとして、どうするつもり?」
そもそもの話だ。
メイネが待ってました、と作戦を口にする。
「大きいボール作って、その中に入ってもらって、敵にぶつける」
アニカを人間砲弾にするのだ。
「ふざけんじゃないわよ!!」
アニカがメイネに掴みかかろうとするが、襟首をアレボルに掴まれる。
「放しなさいよ!」
ぐぬぬっ、と踠くがアレボルは微動だにしない。
アニカが力を抜き抵抗を止めると、アレボルから解放される。
チラッとアレボルを尻目に、隙をついてメイネに掴みかか……、
「だーーっ! やめなさいよ!」
ろうとしたところで、再びアレボルに捕まる。
「じゃあ他の案考えなよ」
メイネは紅茶を嗜みながら丸投げする。
「……」
するとアニカが考え込んで黙る。
珍しいこともあるな、とメイネは思っていた。
「……そうだわ!」
閃いたアニカ。
「なに?」
「服にすればいいのよ! ボールに入るのはごめんだけど服なら着れるもの! そのルイって
名案だわ! と自画自賛する。
「その服着て体当たりするの?」
「そんな訳ないでしょ! そのあたりは考えてもらうのよ!」
肝心なところで他力本願。
細かいところはわからないが、アニカにはできるという確信があった。
「よしっ! さっそくアイアール大森林に行くわよ!」
メイネの口がぽかんと開いたままになる。
「今から?」
「もちろん!」
「いや!」
「私の言うこと聞くって約束でしょ!」
「……」
そう言われるとメイネも困ってしまう。
昨日までの自分なら、頼みを断ってカノン家から出て行ったかもしれない。
だが高級な寝具と食事。
これらを恒久的に得られる環境を手放したくない。
より端的に言えば、餌付けされたのだ。
「ほら行くわよっ!」
アニカが急かすが、
「お父さんに言わなくていいの?」
メイネもねばる。
リキが危険地帯に行こうとする娘を止めてくれるかもしれない。
「言ったら止められるもの! 書き置きを残して抜け出すわ!」
「親孝行だね〜」
もうどうにでもなれ。
やけになったメイネとアレボルは、アニカに先導されて屋敷を抜け出す。
「あ、きたきた!」
そしてカノンの街を出たところでサブレとバリバリが走ってきた。
その後ろから土煙をあげるカノン家の兵士たちをぞろぞろと引き連れて。
「お嬢様ぁぁぁぁーー! こればっかりは許されませんぞぉぉぉぉー!」
必死の形相で先頭を切る兵士が叫ぶ。
「超必死なんだけど……」
「あいつらを出し抜く時がいっちばん楽しいんだから!」
アニカは笑いながらサブレに乗り、その後ろにメイネが乗る。
メイネは自分の後ろに人を乗せたくなかったから。
「出しなさい!」
「はいはい」
サブレが全速力で駆ける。
アレボルを乗せたバリバリも続く。
無尽蔵のスタミナを持つアンデットたちに兵士たちが追いつける訳もなく。
メイネは四年間、
その間、
だからまあ大丈夫だろうと高を括って、アイアール大森林へと旅立った。
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