48.寓話
「大体、貴方と云う人は別離と云うものにからきし弱い。人の生き死ににも極端に
「――ふん」
蚯蚓は口の端でにやりと笑った。
「貴方は医者にならなかったのじゃなくて、なれなかったんでしょう」
「うるさいなぁ」
医学でなく、薬学を目指した本当のところの図星を指され、思わずムキになった蜻蜒を見、蚯蚓は「ぶっ」と
「そうそう。その調子で誰とも付き合えばよいのです。全く、ワタクシは貴方以上にかわいらしい人間と逢ったことがない」
ぐっ、とつまった
二十代後半に差しかかったころから、蚯蚓は
「貴方は素直過ぎるのですよ。昔はこんな調子でやって行けるのかと案じたものですが、それも結局は徒労だったのかも知れませんね。貴方の元には、貴方に合った人間が集まってくるのでしょう。局地的に受けるタイプですしね」
「局地的」
「つまり、貴方のキャラクターにハマったら最後ということです」
「――私はアリ地獄か?」
「どちらかと云えば猫にマタタビ」
「つまり、お前もマタタビに酔った猫なのだな? わかっているなら中毒から脱出する努力ぐらいしてみればよいものを」
「毒を喰らわば皿までですよ」
「ひどい云い草だ」
「――そう云えば、きちんと聞いたことがありませんでしたね。蜻蜒。あなたはどうして〈
ちびりとウイスキーを嘗めながら問うた
「あの、無理に聞きたいと云うのではありませんが」
「いや……」
一瞬迷ったことは事実だ。今まで誰にも話さず心の底に隠してきた。しかし、今では
話を聞いて欲しい――とも思ったのだ。
「ある時、私にこう聞いた男がいた。「君は、『
蚯蚓は右肘を掻きながら、「ああ」と背凭れに
「
「――何故わかった」
「……あなたは、一度性格検査を受けたほうがいいですよ」
何故そう云われてしまうのかすら、わかっていない蜻蜒に、蚯蚓は微笑みかけた。蚯蚓は、話をごまかすことが得手なのである。
「その口調は、餞のものでしょう」
「ああ」
「それで? 飛烏童話でしたね」
飛烏童話――は、有名すぎる
「――『みんなはいつも忘れてしまうのです。
子供のころのことを。
みんなはいつも忘れてしまうのです。
お母さんのおなかの中にいたころのことを。』――か」
蜻蜒は静かに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます