18.方向音痴探偵
食事を終えた三人は、
うつぼ君を先頭に、三人は春の野を行く。ハル子さんと
ちゅるちゅると、小鳥が
しばらく行くと幅二mにも満たない小川が道を横切っていた。そこに掛かっていた石橋を渡り、右折したところに小さな公園がある。うつぼ君は真ッ直ぐその中に入り、斜面になっている芝生のところで腰を下ろした。ハル子さんと偽古庵様も、それにならって腰を下ろす。背中のところに低い生垣があるため、緑陰の涼しさが心地好かった。偽古庵様は腰を下ろすや否やバナナの皮をむき始める。よほどに好きなのだろう。
「さて――何から話そうか」
うつぼ君が、ぽつり
「まず、この話はオフレコにして欲しい。
「なんでや?」
「俺達三人だけで考えたい。それが得策のような――気がする。何となくだけれど」
うつぼ君は難しい顔でそれだけ云い、ふいに遠くへ視線を飛ばした。
「考えたいて? 姫さん達のことか?」
「そうだ。それに、この〈見合い〉と云うまにまにの
ハル子さんは、僅かに眼を
「お見合いの謎? どうしてそんなものがあると思うの?」
「僕の親父は政府の官僚だったんだが、ついこの間の汚職事件で検挙された」
「あら」
何やら突然話が脱線したようではある。しかし、うつぼ君の表情は至極真面目なものだ。満更無関係な展開でもないらしい。
「お
どうやら、うつぼ君の実家は思っていたより深刻な状況下にあるらしい。
「――ところが、だ。親父が検挙されて、それが電波にのって全国ネットに流れた翌日、僕の元に一通の封筒がとどいた」
そこで、
「なんや、俺もそんな話初めて聞くぞ」
「当り前だ。誰にも話していないからな。――その封筒の中に入っていたのは、薄羽のように透けた緑色の便箋だった。そこに記されていたのが、まにまに王國で婿様候補者を募集することだったんだよ」
ぱさり、とハル子さん及び偽古庵様の前に投げ出されたものがあった。市販の、ごく有りふれた白封筒である。うつぼ君は腕を組み、
「おかしいと思わないか? 一体誰がこの手紙を僕に出したんだ? 僕の家から今後金がなくなることは明白だ。そして有名な話だが、まにまに王國には『莫大な資産』がある。それを見越して、僕が金目当てに乗り込んでくるだろうことは明白だ。――何者かが、何かを企んでいることは、確かだと思う」
「誰かって、誰や」
「さぁ、それはまだわからない。まにまに王國の、この見合いを計画している人間の中の誰か、もしくは、この見合いそのものが、ある巨大な仕掛けなのかもしれない。婿の側に二人ダミーがいると云うのだって、もしかしたら嘘だという可能性もあるんだ」
「あ――」
その可能性を考えていなかったらしく、
「そうか……せやな、そう云うふうなこともありえるか」
「そうすると、何か目的があってそういう嘘を
ちらり、とうつぼ君がハル子を見る。ハル子は茫とした眼差しでうつぼ君の
「ハル子は、どうしてここに来たんだ? 結局答えていないだろう」
「そうね」
「答える気はないか」
「今のところはYESと答えておくわ。だって普通に〈お見合い〉にきただけだと云ったって、どうせあなた信じやしないのでしょう?」
うつぼ君は、かすかに溜息を吐いた。
「……まぁ姫側の四人中、三人が偽物だというのは事実だけど」
「四人とも姫さんやいう可能性はないか?」
「それだって結局のところは関係ない。皇太子は一人なんだからな」
「ああ、せやな」
「逆に四人ともフェイクだと云うのはあるかも知れないが」
「四人ともやて?」
うつぼ君は懷から、例の「和紙手帳」を取り出した。胸ポケットに差し込んでいた水性0.3㎜ペンを手に、さらさらと書き付けてゆく。見やると、そこにはすでに細かな文字がびっしりと書き込まれていた。内容は、今まで彼が話していた推理の全て、及びその他である。
「もしかして、あなた昨夜からずっとこんなことを考えていたの?」
「暇だったからな」
「せやからお前眼ェの下に
「うるさい放っといてくれ。――ハル子。今年はS何年だった?」
「S? 62年でしょう?」
うつぼ君は「やっぱり」と呟き、ちっと舌打ちした。
「また間違えていた。なぜだか知らないがいつも61年と書いてしまうんだ」
年月日を記していたらしい箇所をペンで塗りつぶした後、サッとある一行に下線が引かれた。
「例えばこれ。皇太子が女ではなく、実は男だったと云う場合だ。そうなると、必然的に婿のターゲットとして絞られたのはハル子一人と云うことになる」
ハル子は、ぱちくりと瞬いた。
「でっ、でもうつぼ。まにまには女系一族で、女しか絶対生まれへんて……」
「それは表向きの話だ」
「――表向き? どう云うことや」
「『駅名知らせの車掌お化け』だ。ヤツは何代か前の、皇太子の成りそこないなんだよ」
ハル子さんは
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