望郷

@12321a

第1話 望郷


・望郷

変電所の敷石 踵に突き刺さる

広く暗い空の下 青い淡い電気の集まる所で

脚球で遊ぶ子供たち

六月の雨

透明の雨

敷石を黒くする

明るいものは底に落ち

アスファルトは霧散する




・無題

少年は泣いて 鉛筆が折れる

下駄箱は荒れて 理科室が燃える

瓶は鈍器となって 白い雨を降らす

教師は消えて 大人は子供になる

屋上は静かになって 星が綺麗だ





・無題

霜とは月のメッキなり

剥がれ落ちたるその白銀

霜とは月のメッキなり




・三対の足

母は嘆き 父は恐れる

銀色の筒が差し込まれるとき

僕は空を知ることになる

青白い太陽が僕の目を焼いたとき

僕は自由になるだろう




・深海の泡

音がなく光もない 泡がある

味がなく温度もない 泡がある

鯨の死骸が浮いている

ここには誰もいない

深海の泡

誰も見えない




・旅行記

マレーシアを縦に裂く鉄道

座椅子は上下に揺れ 客室は消灯されている

駅で触れた猫の感触 ふてぶてしい弾力 湿ったお腹

思い出しながら 夜が明けるのを待つ

レールを踏む車輪 振動と走行音

熱帯特有の 心地良い朝方の気温

日の昇る予感がした


膝下を隠す朝霧

反射する虹色 

木々を抜けた先 そこは草原

正しく絶勝 心を奪われる

きれいだ




・自省

雨滴に価値がない

感動を求め 称賛を求め 盲目となる

逆立ちをして 己が世界を支えていると錯覚し

天は水面(みなも)よりなお高く

底より深き悲嘆に目もくれず

深海の魚を噛み 捨てる。

野心は胡蝶の哲学となり

胸を打つ歌でさえ 彼の手によるものと知り

己がもはや 若くないと悟り

誰もが得られないので欲しがったこと忘れ 座礁の日を待ち

路傍の石となり

藻屑となり

本意は海の底

その日 彼は陽を浴びて 雨を待ち 帆を張ったようだ

果たして空と海は交わって 明日は色を取り戻した

暗雲の下(もと) 白色の空の下(もと) 豪雨の下(もと)

水面と空は同じ色 その人は恐れない

平らな海原(うなばら)は模様となって 空へと上っていく

それは竜巻だったのか だったのか

私は水底より 深いところ 拭えない

つまらない感情 拭えない 

嫉妬の汚水 停滞している

末路。




・無題

肌色のカリフラワー

百万の美貌とその他たち

白を塗り 隠し 己を殺す

素晴らしきもの それ ブスだから憧れた

彷徨したのち 汗を拭うとき

画面の顔をたどった日

死にたくなる


肌色のカリフラワー

言動で結ばれた小脳の羅列

嘘と知り 背き 走る快感

素晴らしきもの それ 人だから憧れた

回遊したのち 水面が迫るとき

自省の目が追いつく日

死にたくなる


晒し 忘れ 隠してしまえ

明かりを潰す太陽

殺したくなる

明かりを潰す暗雲

安堵

素晴らしき慈愛 


能のない人々

暗雲 そのひと粒 

根を腐らせる

殺したくなる

カリフラワーの意志





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