第2話 満月までの死の行進

 金曜日。

 本多君が駅で電車に轢かれて死んだ。


 土曜日。

 斎藤さんが農薬入りのお茶を飲まされて死んだ。

 一家全員で死んだ。


 日曜日。

 長谷川さんが河で溺れて死んだ。

 水泳部だったのにおかしいよ。


 月曜日。

 北町君が犬に襲われて死んだ。

 体の半分は犬のお腹の中だって。


 火曜日。

 緑川さんがダンプに跳ねられて死んだ。

 ねじ曲がって、車輪に巻き込まれた。




 全部うちのクラス、二年五組の生徒。

 一人ずつ、毎日死んだ。


「絶対おかしいだろっ!」


 洋平君がなるみちゃんに食ってかかった。


「同じクラスの人間ばっかり五人も!」

「洋平、静かにしてよ」


 休み時間。クラスはしーんと静まりかえっている。


「ジョンソンの呪いだ」

「だ、誰だっ! 今言った奴! 出てこいよっ!」


 洋平君が怒鳴る。怒鳴る。怒鳴る。

 外は曇り空、もう泣き出しそう。

 誰も名乗りでない。

 六人の虫食い穴。クラスがバラバラになる。


 放課後、雨が降り出した。

 私はピンクの傘を差して一人で帰る。

 なるみちゃんは部活だ。剣道部。


 帰り道、基地の東へ寄り道してみた。

 一箇所だけある白い壁。

 寄ってみる。沢山の名前がある。クラクラする。


 こんなに呪ってるの? こんなに憎いの?

 すごく気持ち悪い。


 左の壁の所にそれはあった。

 壁にたたずむ毒虫のようにひっそりとあった。

 私は短い悲鳴を上げた。

 祥雲中学二年五組と書かれていた。


 私たちのクラスだ。


 荒々しく肩を掴まれた。私は大きな悲鳴を上げた。


「お前が書いたのか、月寄っ!」


 勢いよく壁にたたき付けられる。肩が痛い。肩が痛いよ。

 鼻の奥がきな臭くなって、泣きたくないのに涙がぼろぼろ出た。


「ち、ちがいます」


 同じクラスの高田君と吉村君と遠藤君。不良の人だ。

 高田君たちはばつが悪そう顔を見合わせる。


「わるい。気が立ってんだ。泣くな」


 高田君達は雨の中去っていく。

 遠藤君がこっちを振り返って小さく頭を下げた。

 雨足が強くなる。びしょぬれになったよ。

 満月まであと四日。


 水曜日。

 今日は誰も死ななかった。


 木曜日。

 今日も誰も死ななかった。


 金曜日。

 今日も大丈夫。

 偶然、だったのかなあ。


 土曜日。

 香川君の家が焼けた。

 一家全員焼け死んだ。

 先生から連絡があって、明日警察の方から事情聴取があるので、昼から学校に来なさいだって。

 日曜日なのに嫌だなあ。



 日曜日。

 お昼ご飯を食べてから制服に着替えた。

 学校に向かおうとしたら、玄関でお姉ちゃんに呼び止められた。


「鏡子、今日は満月だから早く帰ってらっしゃいね」

「うん、わかった。お姉ちゃん、行ってくる」


 私はたまに満月に魅入られて記憶が飛ぶ事がある。

 お姉ちゃんは遺伝だとか言ってたけど、結構面倒。


 まあ、知らない場所に立ってたりするだけなんだけどね。

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