第11話 クルーシュ対ガドイル
「貴様。我の生徒に何をしている」
「あ? 生徒? どういうことだ?」
殴られたガドイルは血の混じった唾を吐き出して立ち上がる。
「我を知らないのも無理はない。今日チーム42番の教官に着任したばかりだからな」
「教官? おまえが? 銅級兵士にこんな鎧男見たことねえぞ」
「それより、我の生徒に何をしていたのかと聞いているのだ。答えろ」
淡々とした口調が逆に威圧感を与える。
「別に何しようがいいだろうが。そんなポンコツを痛めつけたところで誰も損しねえよ。しかしお前もご愁傷様だな。よりによって最弱チームの教官になるなんてな。昇進のチャンスを逃すぜ。俺みたいにさっさと脱出することをお勧めするよ」
「……貴様がどんな悪人だろうがどうでもいいが、生徒を愚弄するようなマネをされてしまっては黙っておけんな。ホランへの暴行、暴言、これまでの虐待。貴様が犯した数々の罪を、死の寸前の痛みを持って清算してもらう」
一歩詰め寄る。鋼鉄の足裏が石畳を打ち、甲高い音が狭い路地に響き渡る。
宣戦布告を受け、ガドイルはしかめっ面で舌打ちをした。
「んだよ。人がせっかく親切心で忠告してやったってのに。しょうがねえ」
背中に背負った剣を抜く。
「いいぜ。来なよ。聖騎士団第四隊治安維持隊で小隊長を務めたことがある俺に勝てるかな?」
「では、遠慮なく」
「ッ!」
クルーシュが少し腰を落として臨戦態勢に入ったとたん、空気が変わった。
尋常ではないオーラに、ガドイルはもちろん、敵意を向けられていないホランですら身を震わせた。
「どうした? 腰が引けているぞ? それが聖騎士団の剣士がとる基本の構えか?」
「う、うるせえ! 喰らいやがれ!」
ガドイルは甲冑の弱点である喉元に向かって突きを放つ。
しかし軽く煽られただけで突っ込んでしまうほど精神的に余裕のない剣筋。剣先を人差し指と親指でつまんで止めることくらい、元魔王にとって造作もないこと。
「な、なんだと!」
「フン。どうせ我と貴様では如何ともしがたい力の差があるのだ。出し惜しみせず最大出力でかかってこい。どんな技でも受け止めてやるぞ」
つまんでいた刃を放す。
バックステップで間合いを取ったガドイル。
「舐めやがって……後悔しても知らねえぞ」
剣を横に振りかぶり、膝を曲げて腰を落とす。大気中に漂っていた魔力が集まり、鋼色の刀身が赤い光を宿す。
「天神斬り。大量の魔力を剣に蓄積させて一気に爆発させることで、どんな相手でも一撃で粉砕する技」
「なるほどな。たしかに並々ならぬエネルギーを感じる」
「難点は魔力を貯めるのに時間がかかること、そして剣筋が分かりやすくて簡単に躱されてしまうこと。だから通常は人や魔物に向かって使うことはない。岩石を破砕したり身動きが取れなくなった魔物に対するトドメ用だ」
そう言ってから不敵な笑みを浮かべ、
「だが、お前は言ったな? 俺の攻撃をすべて受け止めると。男に二言はねえよなあ。見え見えの剣筋を堂々と受け止めてくれるんだよなあ」
「クルーシュ教官! 逃げて! その技を喰らったらひとたまりもないわ!」
力なく壁に寄りかかっているホランが必死に叫ぶ。
「ハハハ! もう遅い! ここで逃げるのは剣士として許されねえぜ! それともホーランアート、お前が代わりに頭を下げるか? 服を脱いで土下座するなら見逃してやってもいいぜ」
「……どこまでも下劣な男ね」
「さあさあ。鎧男さんよお。どうするんだ? 生徒さんに庇ってもらった方が良いんじゃねえのか?」
魔力の集積は最終段階。ガドイルを中心に空気が揺れ、地鳴りのような音が響く。
威力の高さは一目瞭然。例え聖騎士団の隊長クラスでも正面から受け止めろと言われたら拒否するだろう。
「謝るなら今のうちだぞ! どうすんだ? ええ?」
「やるがいい」
「は?」
クルーシュは両手を上げ、人体の弱点である脇腹を晒す。
「ここにズドンと渾身の一撃を放つがいい。我は一歩たりとも動かん。しっかり狙え」
「正気かこいつ……」
想定外のリアクションに、ガドイルは動揺を隠せなかった。
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