第3話 追放はふたりで


「うーむ。待つとは言ったが、いつまで待つかは伝えていなかった。失敗した」


 魔王軍追放から丸三日。魔王城から伸びる桟橋の先で、まるで守衛のように直立してリノの報告を待つクルーシュ。

 あまりにも身動き一つ取らずに待っていたものだから、事情を知らない城兵が「え? なんでこんなところに甲冑が飾ってあるんだ」と勘違いしては「我だ」「ままま魔王様!? 何をされているのですか?」「もう魔王やめたから。今日から対等な立場だぞ。よろしく」とフランクに握手を求めて「えぇ……」とドン引きされる日々。


 今も城に入るゴブリンが気まずそうに会釈をした。


「……このままでは気を遣わせてしまう。早く移動しないと」


 魔王は考える。


「リノを置いて先に出立することもできるが、それは優しさが足りないというもの。かといって直接尋ねに行こうにも、追放された身である以上、城内に入るのは好ましくないし。どうしたものか」


 頭を悩ませていると「クルーシュ様」と聞き慣れた声が聞こえてきた。


 横を見ると、気まずそうにリノが立っていた。いつも通りのさらっとした黒髪にメイド服姿。


「リノ。ようやく来たか。で、どうする? 結論は出たか?」


 問いに、リノは目じりの尖った大きな目を逸らしながら、


「結論が出たというか……私もクビになりました」

「なんと! お前ほどの優秀な秘書がクビだと?」


 コクリと頷く。


「なぜだ?」

「次期魔王は我が魔人族の長ガラン様に決まったのですが、ガラン様がおっしゃるには『前魔王のゆとりの下で実務を積んだ秘書など不要。貴様はクビだ』とのこと」

「ぐぬぬ。リノは優秀な秘書だというのに。ガランのやつ、同族だろうと我の息がかった者は容赦なく切り捨てるつもりなのだな」


 ガランはクルーシュとは真逆の過激思想の持主。力こそが正義という魔界の摂理を魔王軍に取り戻すべきだと常に訴えていた。目の上のタンコブが消えたいま、ぬるま湯体質を一掃しようとしてるのだ。リノの追放はまさにその象徴的人事といえる。


「すまんな。我のせいで居場所を失ってしまって」

「いいですよ。私もクルーシュ様に甘えていたおかげですっかり腑抜けていましたし。辣腕のガラン様のお供は務まりませんでしたから」


 そう言って微笑むリノ。その表情は吹っ切れていた。


「いいのだな?」

「はい。これからよろしくお願いします」


 追放された魔王と魔王秘書官による旅が始まった。


「それで、これからどこに向かうのですか? 適当なクルーシュ様のことですから目的地なんてないのかもしれませんが」

「いや、一か所、どうしても行かなければならない場所がある」

「どこです?」


 クルーシュは短く笑って、


「人間の王に会いに行く」

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