愛を知るまでは 5

 席に戻ると、ポケットの中でスマホが震えた。手で隠しながらスマホの画面を点けると、リモンの通知が来ていた。

”4時間目の英語が始まる時点で消しゴムはなくなっていました”

 発信者は千弦だった。飛び上がらないように気をつけながら、口を手で覆う。飯田と中丸さんを疑ったのがばれたのか。ごめん、とだけ返信してポケットにしまう。ノートを開いてシャーペンを取った。

 またポケットの中でバイブが鳴った。

 再びこっそりポケットからスマホを出して着信を確認する。冷静になってください、とメッセージが来ていた。

「あんたさっきから何してんの?」

 後ろの席の戸部とべさんが話しかけてきたので、ギャー、と悲鳴を上げてしまった。

「いや、驚くのはこっちだよ。この空気でよくスマホいじれるよね」

 あっという間にクラス中から注目を浴びる。椅子から立ち上がって、すみませんでした、と頭を下げた。再び、ブブッと手の中のスマホが鳴る。

「だれかとリモンとかしてる?」

 戸部さんが教室の中を見回す。美羽音と瀬那の手元をじっと見ていた。

「ってことは星野?」

 素が出てる、と戸部さんにささやくと、チッ、と舌打ちした。

「そういえば、みんな川島さんといると別人みたいになるよね。

 なんか、オープンになるっていうか」

 隣の席の岡村おかむらさんが、笑いながら話しかけてくる。田代さんがじっと見ているのもあってか、岡村さんは黙りこくった。

「話しかけやすいんじゃない。何言われても笑ってそうで」

 岡村さんの後ろの渡會わたらいさんまで、頬杖をして不適そうな笑みを浮かべて見てくる。

「ぶっちゃけちゃうのはそういう理由かも」

 美羽音も、くるりと椅子を向けて、こちらを見た。

「アイカは優しいから」

 いたずらっ子のような、温かな微笑みを向けてきた。

「で? 星野は何て言ってるわけ? 犯人がわかりました、絶対に許さない?」

「そんなわけ――」

 戸部さんに急かされるようにスマホを見ると、とこんなメッセージが来ていた。

”みなさんと話をしたいです

 ですが、まだ教室に行くのは怖いです”

 ズキッと胸が痛む。自分の持ち物に刃物を入れられたのだ。そんな教室に行くことはとても怖いだろう。

”無理しないで”

”そうも言っていられません

 なくしてしまうような消しゴムでも、ひどい扱いをされたのですから”

”まずは自分を大事にして”

”そのつもりです

 ですから、教室の様子を、電話でつないでくれませんか”

 自分が教室に来る代わりに、私のスマホを通してみんなの声を聞かせてほしい、ということか。幸い、リモンには無料で通話できる機能がある。

”チヅルがつらくなければ”

”大丈夫です”

 返信が来たところで、織田先生が教室に入ってきた。「自習って言ったろ」とため息をつく。最後に、立ちっぱなしの私を見た。

「あの」

「星野さんから頼まれましたよ。教室にはまだ来られないけど、このことについてクラスみんなから話を聞きたいと。

 それで、電話を川島さんにつないでもらって、話を聞くことはできないか、と聞かれた。川島さんがよければ、と話した」

 私は、大丈夫です、と答えた。

 残りの時間は自習を中断して、クラスで話し合うことになった。

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