桜の空

村上峻

第1部 言葉

「ねぇ....しゅん」

暖房のきいた暖かい部屋の中で、足の指の爪のネイルを落としている瑠奈が俺に話しかけてきた。

「なぁに」


部屋の中に広がる除光液の嫌な匂いを感じながら返事をした。


「幸せってどんな時に感じる?」


「えっ。いきなりどうしたの?」


俺はその質問に驚き、飲みかけの缶ビールを一気に喉に流し込んだ。


瑠奈の視線は足のネイルから、俺に向けられいた。


(その質問の本当の答えが分かる迄に。

これから起こる辛く苦しい事に、

それを耐えて、もがいて初めて気づくことになるなんて、少しも思ってなかったんだ。


この時は.......


まるで自分が住んでいる街に

大きな地震や災害がある前の様に

今の自分じゃ、予想すら出来ない最悪な結末が待っていたんだ。)

俺は彼女と暮らし始めて5年目になる。




俺の職業は水商売。


新宿歌舞伎町の高級店のキャバクラの代表を勤めていた。




典型的な夜型人間だった。




彼女の方は結婚式場関連の職に就いてる。




昼と夜働いてる環境が違う。


それでも5年近く同じ部屋にすんでる。




瑠奈の問いかけに視線を向けずに、


「あまり感じた事ないかも?」


と答えた。




本当は、彼女が喜ぶ言葉は沢山脳裏に浮かんでいたけど、その言葉を伝えてようと思ってが


自身の照れくさいって感情から、そう答えてしまった。




「ふーん」


と一言だけ言い


瑠奈は足のネイルの方に顔を向けた。




(そんな他愛のない会話(言葉)が、


一緒に居られる空間が、


君がいてくれる事が何よりも幸せだったんだね。


あんな終わり方するなんて!


君が居なくなるまでは.......


ごめんね。


本当気付けなくて...........


本当にごめん............

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