球技大会

 学校行事では、必ずと言っていい程、生徒会長のあいさつがあった。

 つまり、

 先輩の声を、姿を見ることができたのだ。

 堂々と、

 真っ直ぐに。


 壇上の先輩は、いつも、素敵で。

 うつむきがちなわたしも、

 この時だけは、顔を上げた。


 あれ?


 球技大会の時の先輩は、

 足に包帯を巻いていて。

 ケガのために競技には参加していなかった。


 先輩の勇姿を見れなかったのは残念だったけれども。


 ケガをしていた先輩は、ずっと本部テントの下に居て。

 だから、

 わたしは、隙あらば、そちらへ視線を向けていた。


 いつも、そこにある先輩の姿。


 目の前に来るボールが見えなくなるくらい、

 わたしは、この日、先輩に夢中だった。




 後から知った話によると、

 先輩は、本当は、立っているのもつらいくらいのケガだったって。

 それなのに、

 あの日の先輩は、

 テントの下で、ずっと微笑みを絶やさなかった。


 壇上に上がるもの、つらかったはずなのに。

 自分のケガのことには少しも触れずに、

 わたしたちを励ましてくれていた。


 その時の、先輩の

 おさげ姿に

 白い鉢巻を巻いて、

 白い体操服が

 まぶしかったことを、

 わたしは、今でも覚えている。









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