清らかに青い春
結音(Yuine)
莟(つぼみ)
一輪の薔薇
「ご卒業、おめでとうございます」
そう言って、差し出した。
薔薇の花束。一輪の薔薇の花束。
深紅の薔薇の花。
先輩は、憧れの人だった。
入学式であいさつをされたその時から、
わたしは、先輩に魅了された。
先輩のあいさつ文は、花の例えから始まって……
今日の卒業式でも。
先輩の答辞は素敵だった。
初めて聞くその言葉に、わたしは、やっぱり心を奪われた。
今日が、先輩に会える最後の日。
だから。
昨日、花束を買いに行った。
花束といっても、薔薇の花を一輪の。
そこに、想いを込めた。
先輩に会えるのは、今日が最後。
誰かが言い出した訳ではないけど。
卒業式には、花を贈る。それも、薔薇の花を。
憧れの先輩に。一輪の薔薇を。
わたしは、先輩に贈るためだけに、薔薇の花を買った。
先輩は、わたしのことなんて、きっと、知らないだろうけど。
名前も。顔も。
きっと、知られてなんかいないだろうけど。
わたしは、先輩を見てきた。
この一年、ずっと、先輩を見つめてきた。
これは、そんな思いの結晶。
最後の勇気。
先輩に直接話しかける。最初で最後の……
「ありがとう」
先輩は、そう言って。花束を受け取ってくれた。
一瞬だけ、驚いたような顔をしていたけれども。
あぁ、そうだよね。
顔も名前も知らない下級生から、突然、花束を突き付けられたら、不思議に思うよね。ごめんなさい。
なのに。
先輩は、優しく微笑んで、私の花束を受け取ってくれた。
高等部3年生の先輩が、中学部1年生のわたしの名前なんて、知らなくて当然。
だから。
「ありがとう」
先輩から、直接、わたしだけに伝えられた言葉が嬉しかった。
先輩が、わたしを見てくれた。
わたしの花束を受け取ってくれた。
それだけで。
わたしは、涙がこぼれた。
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