政宗が秀吉を殺していたら

飛鳥 竜二

第1話 小田原にて

空想時代小説 


 小田原攻めで、政宗(23才)は、死に装束で秀吉(53才)と対面していた。

「政宗、よくぞ参った。もっともあと少し遅かったら、ここがなかったがな」

と言いながら持っていた馬尻をたたくむちで政宗の首を何度かたたいた。

「ははっ! おそれいります」

「まあよいわ。どれ、わが陣営を見せてやろうぞ。ついて参れ」

政宗と二人きりになるのをいさめた家臣もいたが、秀吉は

「よい、よい」

と言って、本陣から少し離れた見晴らし台から小田原の城下を政宗に見せた。

「どうだ、これが小田原攻めじゃ。兵を失うことなく勝つ。これぞ秀吉の戦いじゃ」

と言いながら、袴をたくりあげ、小便をし始めた。そこに、政宗が

「お命頂戴!」

と言って、持っていた匕首(短刀)で秀吉の脇腹をさした。

「なぬっ! お主正気か!」

秀吉は崩れながら、政宗の顔をにらんだ。

「正気も正気! 狂気はそなたの方じゃ」

と言いながら、秀吉の首をかききった。死に装束は赤く染まっている。秀吉の側近たちが駆け込んできた。政宗は、秀吉の首を高く持ち上げ、

「見よ! これが秀吉の最後じゃ。秀吉がおさめる日の本は、金まみれじゃ。自分が農民の出でありながら農民を苦しめている。そんな奴のもとにつくのは、まっぴらご免じゃ!」

「政宗、乱心したか!」

「乱心ではない。それにわしは政宗ではない!」

と叫んで、眼帯にしている刀のつばをむしり取った。

「隻眼ではない! 偽物の政宗だ! 影武者だ!」

秀吉の側近たちが騒いだ。

「もう遅い。今頃、お屋形さまは佐竹攻めをしていることだろう。天下はお屋形さまが握るであろう」

と言いながら、自分の首をかききった。と同時に近くの茂みから狼煙があがった。政宗配下の忍びの仕業である。それを見た小田原の北条勢から歓声があがった。馬だし門から出てくる北条の一団もいた。まさか、討って出てくると思っていない秀吉軍は混乱した。

 その日は、小競り合いですんだが、秀吉の死が各陣営に知れると、潮が引くように四散していった。兵糧攻めをしていたはずの秀吉軍が実は兵糧に困っていたのである。なにせ20万を越す大軍なので、補給がままならかった。ましてや、石垣山の本陣で毎日のように宴が開催されるので、諸将は戦に来ているというより、物見遊山に来ている感がしていたのである。

 秀吉側近の石田三成(30才)は、忍城攻めで苦戦している。兵糧を手配する者が小田原にいなかったのである。金と兵糧を握っている秀吉が亡くなった今、補給がこないとなれば、自費で兵糧を確保しなければならない。それも近くでは得られないので、遠方の自領から持ってこなければならない。そこまでする戦ではないのである。

 北条勢は、歓喜の中、支城奪回に北条氏照(50才)の軍勢が繰り出していった。

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