第116話 32年目の第三日曜日

 1991年の第三日曜日にも、私は、あの地に足を踏み入れた。

 そして、32年後の2023年の第三日曜日である今日もまた。


 実質的には殺人事件よ、あれは。何が海軍精神だ、笑わせるな。

 何が自然だ、笑わせるな。何が情緒教育だ、度々、笑わせるな。


 当時の中国新聞記事、三原駅前の市立図書館で複写してきたよ。

 一面トップに、あのおっさんの顔写真も出ておりました。ええ。

 さすがに地元だけあって、全国紙の社会欄の比ではない扱いだ。

 約1週間にわたって、どでかく報道されておりましたよ。はい。


 こういう事件はやはり、地元新聞の記事が詳細だということね。

 その新聞記事の写真にしたがって、現地を再確認してきました。

 ある動画で言われていた、写経された紙というのがありました。

 住所と氏名が書かれていまして、明らかに、被害者の関係者ね。


 こんなことをしても何の償いにもならないのは、厳然たる事実。

 だが、そうでもしないとやっていられない心情が伝わってくる。


 ペットボトルの紅茶を備え、手を合わせるより他、ありません。

 そうしていると、大きな蜂が飛んできた。耳元近くまで来たよ。

 もうここには来なくていいから、帰ってしっかり仕事で見せろ。

 そう言われているような気がして、そっと、現場を去りました。


 折返しの船で三原に戻り、去年行った尾道のラーメンを食べて、

 ビールをあおり、電車で、ひたすら、寝ながら帰ってきました。

 

 サウナの最後の日の告知を横目に、そのまま自宅に戻りました。

 帰宅した今なお、あの蜂の音と感触、右耳に幾分残っています。

 

 この32年間のうちに3回、小佐木島に行って、出会った動物。

 馬にも犬にも会っていません。今日のあの大きな蜂だけでした。

 

 

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