24歳のしずかな悲鳴
pico
無言のさようなら
(どこでまちがったんだろう)
明け方の冷たい風をうけながら、あたしは地上を見下ろした。
「またリコにスルーされちゃった……
アキちゃんの投稿にはコメント入れてるのに」
SNSを眺めながら、あたしは不満げに息を吐いた。
最近、リコに距離を置かれてる気がする。
今日もあたしの投稿には、いいねもコメントもくれなかった。
よくあること。それはわかってる。
でもこういうことがあるたびに、思い知らされる。
あたしの世界にはこの子がいるのに、この子の世界にはあたしがいない。
あたしはそっと、ミュートボタンを押した。
しかたない。誰も悪くない。
しいて言うなら、この子に好かれるほどの魅力がなかった、あたしが悪い。
あたしはこの子の世界の中で、生き残れなかったんだ。
人付き合いが下手なわけではないと、思う。
だれとだって仲良くなれるし、そこそこ濃い仲にはなれる。
けど、いつも感じさせられる。
あたしが相手を思っているほど、相手はあたしをなんとも思ってないんだなって。
気が合って、おしゃべりも楽しくて、この子となら、と思っても。
あたしとの間に、いつのまにか線が引かれる。
線の向こう側で、会話がはずむ。それを見ているのがつらくて、あたしはまたミュートボタンを押す。
あたしのほうから手離してしまえば、いつかこの痛みは忘れられる。
世界から少しずつ切り離されていくような感覚。
それでも、世界は循環する。
手離したぶん、新たな出会いもある。
線が引かれ、切り離され、みずから手離して。
線が引かれ、切り離され、みずから手離して。
線が引かれ、切り離され、みずから手離して。
そうするうちにあたしは、世界にたったひとりになってしまった。
そして、本当に追いつめられた、今。
仕事も人間関係もうまくいかなくて、自信を失い前に進めなくなった、今。
だれかを頼りたくてしかたなかったのに、あたしの世界にはだれもいなかった。
聞いてくれる相手も、励ましてくれる相手も、一緒に泣いてくれる相手も、いなかった。
(どこでまちがったんだろう)
考えても、わからなかった。
懸命に相手に合わせて、好かれるための努力をしてきた。
それなのに、どうして。
みんなの世界に、あたしは生きていない。
あたしの世界にも、だれもいなくなった。
最期のとき、さようならを言う相手も、いない。
……あぁ、ちがう。
たったひとり、さようならを言う相手がいた。
(さよなら、あたし)
こうしてあたしの世界からは、あたしすら居なくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます