第六章 それぞれの一日
第六章 それぞれの一日 1
二人がハンクルを出てから既に数時間が過ぎていた。
本来なら少し肌寒い季節だが、この世界でも暖かい地域のため、日が昇れば十分すぎるほど暖かさを感じることが出来た。太陽は頂点を越え、誰にも咎められることなくゆっくりと沈み始めていた。
山までは直線的だったし、道も細いながら一通りは固められていたので戸惑うこともなかった。雲に突き刺さるか刺さらないかの高さの山の頂上は薄らと白化粧を施されていた。
順調に行けば日暮れ間近に北山の祠に到着するだろうと、距離を目算してフィロリスは思っていた。何事もなければ、だが。
ROSを出発したのは日も昇り始めた早朝だった。普段なら貿易都市であるここは朝早くから活気があるのだが、今日の夜に訪れるルナの日の祝典準備とあって、それなりにひっそりとしていた。この日だけはほとんどの店は昼過ぎから夜明まで営業をするのである。学校ももちろん休みだし、子供たちは夜出歩くのを楽しみにしているのだから、わざわざ早起きするものはいない。
だから街は幾人かがそれぞれの理由で歩いているだけで、ただ風が壁の中に入り込む音が聞こえるだけだった。
二人の出発にはシークネンとエミリアが立ち会った。
北門のところで二人は見送りに来た彼らと簡単な挨拶をした。彼らには本当のことは何も言わなかったから、目的について知るはずもない。
ただシークネンはそれが危険であることを感じていたらしく、あまりいつもの冗談は言わなかった。
「無理はするなよ」
とシークネンがフィロリスに言ったが、それに対しては頷き返すことしか出来なかった。シークネンもそれ以上は言わなかった。
エミリアは寝足りないのかまぶたを擦っていた。全てが終わったらまたここに戻ってくるという約束をしていたから、さほど気にしていなかったのかもしれない。
フィロリスとルーイの間には言葉はなく、沈黙が流れ続けていた。
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