第五章 晴雨 5

 プカリ

 熱くも冷たくもない液体。

 色のない液体。

 空気の水。

 ただ身を委ね、浮遊を続ける体。

 黒色の有機コードに包まれている体。

 規則的な機械音。

 それに合わせるような自分の鼓動の音。

 なぜここに自分がいるのかは分からない。

 ここにいることが当然のことだから。

 自分は『出来たて』なのだから。

 色々考えてみるが、考えてみることが難しくてもどかしくなる。

 目を開くと壁の向こうが見える。

 外の空間。

 自分と世界を隔てる壁。

 その前では、白い髪の少年がじっと自分を見つめていた。

 真っ白い服で、真っ白い髪。

 どこか冷たそうな、けれど暖かい紅い瞳。

 僕と同じ、紅い瞳。

 手を伸ばそうと思ったが、体中に巻きついてるコードが邪魔をする。

 例え伸ばせても壁の向こうを触れることなど出来るはずもない。

 君は、ダレ?

 心の中で想ってみたが、言葉にはならない。

 こんなとき、どんな顔をしていいのかまだ自分には分からない。

 少年は、ただ優しく微笑んでいるようだった。

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