第五章 晴雨 4
ROS二階、エミリアの食事会が終わり、フィロリスとルーイが同じ部屋にいた。予想通り散らかさせたキッチンの片付けに多少時間を費やしてしまったが、エミリアがフィロリスとルーイのために一生懸命作った料理は決して悪いものではなかった。二人は明日のことを考えながらも、そのゆったりとした時間を楽しんでいた。ルーイはレインが無事かどうか気にかかっていたが、フィロリスは別なことを考えているように見えた。
シークネンは疲れこんで寝てしまったエミリアを優しく抱え、フィロリス達に二階の部屋を使うよう指示し、自分の部屋に戻っていった。
出発は明日の早朝、本来なら今の内に出ておくべきなのだが、夜に出歩くことは旅慣れている二人にとっても得策ではない。ましてや経験のない場所へは慎重な移動が必要だ。
「フィロリス」
簡素に作られていたベッドの上にルーイがいる。フィロリスは自らのカタナを取り出し、丁寧に氣を押し込めていた。効率良く氣を武器に送るためには武器を自身の分身として使い込まなければならない。
「なんだ?」
「あなたは、あの人を知っているのですね」
あの人、とはライゼンのことだ。ライゼンはフィロリスもグレンも知っている素振りであったし、エルフィンとフィロリスもそのようなことを二人で話していた。ルーイはシーグルの研究所について二人から聞いた表面的な知識しかない。それぞれのシーグル同士に多少の面識はあったらしいが、それだけではすまない何かが彼らの中には存在しているのだとルーイは思っていた。
「なんでそう思う?」
罰が悪そうな顔をするルーイ。
「すみません、昨日のエルフィンさんとの話を聞いていました」
「そうか」
表情を変えることなく、淡々と返すフィロリス。
ライゼンが来た、という話を聞いて、フィロイスも二人の関係についていつか話さなければいけないと思っていたのかもしれない。
「あなたにとって、彼は何者なのですか?」
フィロリスがカタナを鞘に収め、ベッドの横に立てかける。そのままの動作で椅子に腰を下ろした。周囲を軽く見渡すと、暇を潰すためか本棚にびっしりと本が並んでいる。シークネンの趣味なのか、冒険物の小説が多いようだ、小さい子向けの絵本も下一段を占めている。
「ルーイは、どうして俺なんかと一緒にいるんだ?」
はっきりと聞くわけでもなく、ただ言葉を漏らす。
「どうしたのですか?」
「いや、何でもない」
手を軽く振るフィロリス。
その様子を不思議そうな顔をしてフィロリスを正視する、緑褐色の獣。
フィロリスは目を落とし、手を組んだ。
「ライゼン=ローゼス、あの時研究室にいたシーグル、俺にとってはただそれだけだ」
「それだけ?」
「あいつにとっては、違うかもしれないけどな」
呼気を緩め、思いつめたような顔をする。
「どういう意味ですか?」
「あいつは、俺の兄貴なんだ」
言葉をためず、さらりと流す。
「でも……」
唐突の言葉にルーイの声が詰まる。当然その可能性も考慮していた、もっとも今フィロリスが言った可能性が一番高いだろう、ということも認識していたつもりだった。
しかし、フィロリスは遺伝子技術により生まれた純粋培養の人間である。決して人から生まれたわけではない。
「遺伝子上の兄弟ってやつだ」
エルフィンがシーグルを創りだすためにクローンと遺伝子操作を繰り返してきた、と言っていた。無から生物は創れないから、他からの遺伝情報を合成しなくてはいけない。
「俺とライゼンは共通のシーグルの遺伝子から作られたシーグルなんだ、まぁ完全なクローンと言うわけじゃないから、普通に考えれば腹違いの兄弟ってことになる、出来たのは培養液の中だけどな」
ゆっくりとフィロリスが目を閉じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます