ギルド・ファンディング

@hori2

醜い僕

 顔が醜い。


 僕が子供のころから言われてきたことだ。そう一番最初に言われたのは母上だったと思う。僕を汚い物でも見るように冷たい目で見降ろしてきたことがずっと忘れることができない。


 でも仕方ないと思うよ。鏡に映った僕を見てそう感じる。


 左目のあたりが焼けただれたように崩れている。他人だったら顔をそむけてしまいそうになると思う。だから毎朝僕は鏡を見てそうやって納得をするんだ。


「ライル様。ご当主がお呼びです」


 自室にいる僕を外から呼ぶメイドの声が聞こえる。抑揚のない声はひどく義務的でできればかかわりたくないと思っているんだろうなと感じる。これも毎朝のことだ。


 はいと返事をして僕は部屋を出る。顔を下に向けたメイドにおはようというと彼女もおはようとは言ってくれた。もちろん……嫌そうな感じがほんの少しするけど。


 廊下を歩く。長い廊下。こつこつと僕が歩くたびに音が響く。窓からは僕の住む屋敷の下にある街が見える。炊煙が上がっているのはパンでも焼いているのかなっていつも思う。


 僕の家のアイスバーグ家は領主としてこの一帯を治めている。それを行っているのは父上だ。父はとても威厳のある人で尊敬している。


 そう思っていると向こう側から数人僕とは逆に歩いてくる。弟のレオンだった。僕とは反対に整った容姿をしていて、銀髪が朝日に輝いてみえる。


「ああ、兄上。おはようございます」

「おはよう。レオン」


 レオンは僕にそう言ってすぐに通り過ぎていく。レオンの後ろには数人の使用人が続いていく。僕を見て露骨に嘲るような表情をしていくものもいた。気にしない、気にしない。……気にしていたら多分持たない。


 廊下を過ぎるて階段で一階に降りると中庭が見える。そこは色とりどりの花で埋め尽くされた庭園だった。母上がとても花を大切にされているから美しいと思う。ちなみに僕は立ち入り禁止だ。朝早くから庭師が数人いて、僕をちらりと見て仕事に戻っていく。


 その中に淡い紫の髪をした少女がいた。その瞬間僕の心臓はどきりと音を立てる。


「あ、アナスタシア。おはよう」


 少女が振り返った。簡素で、それでいて美しいドレスに身を包んだ彼女。白い肌をした美しい少女……そしてとってもかわいそうな子だ。なんたって僕の、婚約者だから。彼女はこの中庭が好きでよく来ている。朝が一番きれいだと言っていた。


 彼女は僕を見てにこりと笑ってくれた。おはようございますと花園の中で微笑む彼女はとてもやさしい。僕にも分け隔てなくかかわってくれる。だから、僕は彼女のことが心の底から好きだ。


 好きだからわかる。彼女は本当は僕を好きではない。


 優しい彼女は醜い僕を気遣っている。そして彼女の家は領主であるアイスバーグ家との縁談を大事にしているから、義務感もあるのだと思う。ああ、そうだ、彼女の笑顔を見るたびに僕は自分が思っていることを気づかれないように、馬鹿が美少女に盲目的に恋をしているって顔をする。


 アナスタシアとは話を少しだけして、中庭から離れようとする。その時、レオンがそのそばを通りかかった、単なる偶然だけど、アナスタシアの瞳がそれを追った。僕はそれに気が付かないふりをする。


 レオンのことを本当は好きなのだ。僕は君が好きだから知ってる。届かない恋に思いをはせている彼女を見るたびに醜い顔を一生懸命に笑顔にしている僕でも、引きつりそうになるよ。ああ、でも引きつったって元が悪いからわからないと思うけど、あはは。


 僕は逃げるようにその場を去った。

 

 すれ違う使用人は僕をみて形式的に挨拶をするから、僕もそうする。


 みんなの内心は何となくわかってる。


「父上、ライルが来ました」


 父上の執務室の前でそういうと中から「入れ」と声がした。ドアを開けると父上が執務室奥の机に座っていて、その横に母上がいた。母上は僕を見て冷たく見つめてくる。……あ、いけないな。僕は一瞬顔をゆがめそうになった。


「父上、母上。おはようございます。何かお呼びでしょうか」

「ライル、お前に命じることがあって呼んだ」


 父上はそう言って口を開く。口ひげをなでながら言われる。


「ゴブリンの討伐にお前に命じる」


 え? 魔物の討伐? 僕は純粋に驚いた。


「領内の近くに出没する魔物がいるという話だ。お前は次期当主……」


 そう言って父上は母を見る。不満そうな母に遠慮しているのは分かる。咳ばらいをして父上はつづけた。


「だからこそ兵を率いてこの程度の働きはしなければならない。一応、冒険者も雇う。お前は魔法はからきしだが、剣は好きなようだからな。この機会に功績を立てなさい」

「……はい!」


 正直に言うと僕は嬉しさで飛び上がりそうだった。何かを任されるということが僕にはまぶしいくらいだった。もしかしたら、ここで功績を残せばアナスタシアも僕を見てくれるかもしれない。


 頑張ろう。みんながこれで認めてくれるのなら。

 









 

































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