第87話騎士団長の案内

「どうも、改めてよろしく。運び屋のアクセルだ」

 

 と、そこまで話してから、今しがた言われた自己紹介の単語が気になった。

 

「ん? セシルとジョージの親御さんが、騎士団長さん?」

「ええ。というか話してなかったのですか? その子たちは」

「初耳だ」

「なるほど……立場を知らずとも仕事をして下さるという噂は本当のようだ。……お会い出来て光栄です、アクセル殿……!」  


 言いながら手を差し出してきた。  握手をすると、語調と同じくらい力強い握り返しが来た。

「かつて貴殿が『不可視の竜騎士アクセル』として戦場を駆け巡っているのを、地表から見上げていた時から、ずっとこうして会話出来る機会を待ち望んでおりました」


 その言葉に、俺は首を傾げた。


「ん? シドニウスさんは、俺が元竜騎士だって事も分かってるのか?」

 先ほどの運び屋と同じように、それも噂になっているのだろうか。

「いえ、分かっている、というのは正確ではありません。推測です。ここにいらっしゃる勇者の方々の接し方で察する事は出来ます。また纏っている雰囲気などでも、何となくも。……合ってますよね?」

 シドニウスは、いつの間にか俺に引っ付いている二人と一匹に視線を送りながら、尋ねてくる。

 こうして最初から分かる人は珍しいな、と思いながら、俺も頷きで返す。


「ああ、勇者をやっていた元竜騎士のアクセルであることは間違いないな。シドニウスさんが想像する奴かどうかは分からんが」


「そうですか……本当に、元(・)竜騎士、なのですね」


 俺の言葉に、シドニウスは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。


「あれ、何か、合ってたら不味かったか?」 

「い、いえ、そんな事はありません! ……改めて、お目に書かれて光栄です……! そして、ここからは、私の権限を持って、錬成の勇者殿を呼んだ経緯を含めて、説明させて頂きたく思います」

「いいのか? 俺、この街に来たばかりだけど」  


 デイジーでも言うのを渋っていた事なのだが。そんなに軽く話すことを決めてしまっていいのだろうか。そう問うと、

 

「軽い判断ではありませんよ。既に、その指輪に見える王導十二ギルドの認定印でアクセル殿の信用が出来ますから。……何より、とても手が掛かる性格の我が子たちが、アクセル殿を信頼の瞳で見ている。それだけで、私個人として信用する事が出来ていますので」


 そう言った後で、シドニウスは、神樹の方を手で指し示した。

 

 「それでは、こちらへお越しください。神樹の入り口に案内します。なにぶん内密な事なので、人目につかない場所で、慎重に説明させて頂きます」

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