第53話水の都での新たな評価
「運び屋が戻って来たぞ!」
氷の道から港の地に足を付けた俺たちを、港にいる人たちはそんな声と共に出迎えた。
そしてみんなが駆け寄ってくるのだが、一番早く俺達の元に来たのはライラックだ。
「大丈夫かい、アクセルさん! 船が半ば沈んじまっているところから来たみたいだが、怪我はないかい……?! そこに医療用のテントを張ってあるから、対処は直ぐに出来るから言っておくれ! 海事ギルドの医者もここに呼んでいるしね」
ライラックの視線の先には白衣を着用した老人がいた。恐らく彼が医者だろう。
「俺の方は平気だ。ただ、けが人は別個でいてな。この中に入ってる」
俺は言いながら輸送袋に触れた。
「まさか輸送袋に人を入れているのかい?!」
「ああ。今出すよ。治療はある程度済んでいるから命に別状はないが、医者がいるならここで見て貰った方が良いし。ヤバそうなら病院に行かせてやった方がいいだろうからな」
口を開いて、中から、怪我人や船長が寝ているベッドを出して、港に並べていく。すると、港の人々の口から、おおっとどよめきが上がった。
「す、すげえ、この人数を、助け出して運んできたのか……」
「待てよ……あの運び屋さん。星の都でも見た事があるぞ。確か……どんな仕事でも即座にこなしちまう、空飛ぶ運び屋って言われていた人だ……」
「あの《空飛ぶ運び屋》!? マジで実在するのか。というか、海を走る事も出来るんだな……!!」
などというざわめきを耳にしながら、俺は輸送袋の中に入れていた乗組員を全て降ろし終えた。
「これで全員だが、大丈夫かね?」
降ろした傍から医者に診られている乗組員たちを見つつ、俺は聞く。すると、ライラックは驚きの表情を浮かべたまま、首を横に振った。
「あ、ああ。少し前にサキさんとバーゼリアさんが送り届けてくれた人員を含めて、報告にあった乗組員全員だ……こんな大事になったのに、全員助かったのは、奇跡だよ……!」
「そうか。そこの船長が言っていた通り、全員救助は出来たんだな。じゃあ、あとは頼む」
「あ、ああ、そうだね!」
ライラックは表情を真面目なモノに切り替えて、医者から一言二言話した後、周りの海事ギルド員に叫ぶ。
「お前たち、病院の手配は済んでいるね!? 命に問題は無いって話だが、念のためこの人らを病院に送るよ!」
「押忍! 了解っす、姉さん!」
そして海事ギルド員は次々に、用意していた担架に乗せていく。
あとは、彼らが怪我人を良く扱ってくれるのだろう。
無事に済んで良かった、と息を吐いていると、
「おーい、アクセルさん。皆」
ライラックが隣にやってきた。そして、俺たちに深々と頭を下げてきた。
「ヤバイ事態だったけれど、アクセルさん達三人のお陰で本当に助かったよ……!」
「依頼だからな。気にしないでくれ。というか、活躍したのは殆ど、サキだと思うから。礼を言うなら、この子に言ってやってくれ」
今回、船に行って帰る為の氷の道を作ってくれたのはサキなのだし。そう思って告げると、俺の隣で佇んでいたサキは首を横に振った。
「私はアクセルのお手伝いをしたに過ぎませんよ。それこそお気になさらず。ああ、因みにアクセルがお礼としてキスしてくれるなら何時でも受け入れますが!」
「なんですぐにそういう話につなげるかね、お前は」
「はは……本当に凄い仲間を持っているねえ、アクセルさんは」
と、ライラックの苦笑交じりの声を受けていると、
「運び屋の、兄さん……」
横から追加で、声が掛けられた。
声の方を見ればそこには、海事ギルドの男に肩を借りて立っているヴィルヘルムがいた。
「うん? 船長? 病院に行かなくていいのか?」
「いや、行く前に、一度感謝を示したかったんだ。まずは、命を拾わせて貰ったよ……ありがとうと言わせてほしい。そしてまた、今度、改めて礼をさせてほしい……」
弱り気味だが、しっかり芯のある言葉でヴィルヘルムは言う。その後で、彼はライラックを見た。
「ライラックもすまんな。この運び屋の兄さんに依頼を出して貰って、助かったよ……」
そんな彼に対して、ライラックはふう、と息を吐いた。
「そりゃどうも。だがね、アタシゃ頼んだだけで、何もやってないよ。だから、あたしなんかに礼をいわないで、アクセルさんに恩を返しな。造船ギルドの幹部としてな。そして今はまず、病院に行きな! アンタが一番重傷だろう」
「あ、あ……そうだな。じゃあ、体を治してから改めて、会いに来させて貰うよ。またな、運び屋の兄さん。それと、ライラックはこの後、病院に来てくれ。事故の報告をしたい」
それだけ言って、ヴィルヘルムは去って行った。
その後ろ姿を見ながら俺はライラックのセリフで気になった事を彼女に聞くことにした。
「……あの船長、造船ギルドの幹部だったんだな?」
「そうだね。ああ見えて、造船ギルドのマスターなのさ。現場主義で、良く船に乗っているのだけれども、まさか今回も乗っているとはね。まあ、この後は病院で報告を聞かせて貰うさ」
そんな事を言いながら、ライラックは俺の方に向き直った。そして、力強い瞳を俺たちに向けて来る。
「ヴィルヘルムの分も合わせて有り難う、と言わせてくれ、お三方。今回の件で、とんでもない恩が出来たからね。とりあえず、海事ギルドは全力で恩を返させて貰うよ!」
「はは、まあ、程々でいいぞ?」
「ああ、程々に全力を込めさせてもらうよ。今回の依頼の報酬も含めてね。序の口として、全員生還記念パーティーを酒場で開く予定だから、楽しみにしていてくれ!」
そんな風に力強い意思が含まれた言葉を残した後で、ライラックは病院へと向かって行った。
こうして、サキを加えての初依頼は、ひとまず無事成功で終わったようだ
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