水の都 お仕事編

第49話新たな仲間と新規依頼

 サキと合流した日の翌日、俺は海賊の宿屋一階で朝飯を食べていた。

 同席するのはバーゼリアと、サキだ。朝からなんで彼女が一緒にいるのかというと、

 

「まさか合流したその日に、荷物を纏めてこっちに来るとはな……」

「仲間なのだから同じ宿屋に泊まるのは当然です。もっと言えば同じ部屋、同じベッド、同じお風呂で、互いの匂いを付け合うべきだと思うのですが」

「生憎と、この宿屋では二人部屋しかないからな。それは無理だな」


 既にバーゼリアと同室なので、定員オーバーだ。

 ベッドも一部屋に二つしかないし。


「私とアクセルが同じベッドを使えば大丈夫ですよ」

「ちょっと、リズノワール。それはボクも我慢してる事なんだから。というか、ご主人の許し無しでやろうとした場合、ボクが止めるからね」


 バーゼリアの半目を向けながらの言葉に、サキはにっこりと張り付けたような笑顔を返す。


「嫌ですね。無理矢理なんてしないですよ。あくまで私はどうにかしてでも、何としてでも許可を取りに行くスタイルですので」 


 そして力強く宣言してくる彼女に対し、バーゼリアは更に目を細める。


「相変わらず、変な所で正々堂々としているなあ、この魔術の勇者」

「はは、そう言うなって。サキのこういう清々しいまでに真っ直ぐな所は良い所なんだから。俺も好きな部分だし」


 そう言った瞬間、サキの目の色が変わった。というか、思いっきり輝いた。


「好き? 好きと言いましたね! では、結婚しますか!」

「それとこれとは話が別だ。好意は嬉しいし、有り難いけど。昔、そういう関係はまだなるべきではないということで、お互いに納得したんだからな」


 勇者時代の話を思い出しながら言うと、サキはにっこりと、嬉しそうに微笑んで頷いた。


「勿論。諸所の理由から納得はしました。ただ、好きと言い続けるとも言いましたからね。とりあえず、私の好意を嬉しがって貰えるならそれだけでも言い続けた甲斐がありました! ええ、オッケーです! 朝から元気になりますよ」

「……リズノワールは真っ直ぐな所もそうだけど、テンションが一気に高くなるのも相変わらずだね、ご主人」

「そうだなあ。この部分も変わりなくて何よりだ。大切な仲間の元気が無い姿を見たくはないし」

「大切! ええ、その言葉のお陰で更に元気になりましたね! 食欲もマシマシになるくらいに!」


 そんな事を言いながら、サキは朝食をどんどん平らげていく。だが、その途中で手にしていたスプーンが止まり、


「む、このスープは特に美味しいですね。というか、懐かしい味付けがします……?」


 首を傾げながらサキは言った。その台詞に、俺は少しだけ驚きながら言葉を返す。


「ああ、そのスープは俺が厨房を借りてな、作らせて貰ったんだよ。この街の食材も使ってみたくてな」

「やっぱりこれ、アクセル作なんですか。道理で。昔を思い出す味ですよ」


 サキは言いながら、柔和な笑みと共にスプーンを口に運ぶ。そして美味しそうに口元を緩ませていた。ただ、


「昔の味って……調味料や素材は変わっている筈なんだがな」


 それこそ、旅をしていた時には持っていなかった材料をふんだんに使ったのに。どういうことだろう、と思っていたら横のバーゼリアも頷いていて、


「ああ、でも、ご主人の手料理にはなんだか特別感があるからね。ボクも分かるよ。凄くホッとするんだよね」

「はい。竜王ハイドラと同意するのは少しもやっとした気持ちになりますが、アクセルの手料理を食べていると凄く安らぐんです」


 二人からそんな事を言われるが、俺からするとよく分からん。

 分からないが、自作メシが好評なのは良い事だ。

 

 ……朝から料理が成功してくれて、幸先がいいな。

 

 そんな事を思いながら食事をしつつ、俺はサキたちに今日の予定を告げておくことにした。


「それで、朝飯を食ったら軽くこの街のギルドを回ってみようと思うんだ。ついでに出来そうな仕事があるかも確認したいし。サキもそれでいいか?」


 問いに対して、サキは即答だった。


「ええ、大丈夫です。昨日、いくらか仕事を見させて頂いたお陰で、手伝いのイメージは出来ていますし。……まあ、アクセルの相変わらずの能力を見せられて驚きましたが」

「ああ、昨日の夕方の仕事か」


 昨日、サキが合流した後で、ライラックから少しだけ荷物の輸送を頼まれた。店を貸してもらった礼も兼ねて依頼を受けてこなしたのだが、その時にサキに対して、仕事の説明を兼ねて動きを見せたのだ。


「あの速度を保ってこの街を駆け抜けるとは、地上付近では竜騎士時代よりも早い気がしますね。走り方も柔らかくなりましたし」

「リズノワールに同意するのは癪だけど、確かにご主人の俊敏性は上がったよね」

「まあ、大分この仕事に慣れさせてもらったのが大きいんだろう。運び屋として、レベルアップもしているしな」 


 俺は懐に収めてあるスキル表を取り出して、見た。そこには、

 

【《運び屋》レベル8】

 

 一昨日よりも一レベル上がった数字が記載されていた。


「昨日の仕事のあとに、また光っていたもんねえ」

「ああ。また、輸送袋も拡張されたぞ」


 スキルの欄には、【輸送袋グレードEX1.5】という表記があり、入れられる物量が更に倍になったとの説明が書かれている。


「まだ初級職になった半年もたっていないのにレベル8とは。いくらレベルが上がりやすいとはいえ、やはりアクセルは想像以上の成長をしていますね……!」


 それを見て、サキは興奮したような目を向けてくる。昨日のレベルアップ時にはこれ以上に興奮するは抱き着いてくるわで大騒ぎだったけれども、一日経ったら落ち着いたようである。

 

「転職させた神も、まさかこんな速度でレベル8まで鍛え上げるとは思わなかったでしょうに。きっと度肝を抜いていると思いますよ」 

「その辺はどうだろうな。レベルアップの基準が、今のところ、上手くハマっているだけって可能性も大きいし」

 

 とはいえ、このまま増えれば、もっと沢山、もっと大きなものを運べるようになるのだろう。

 だから、今後どうなるかも楽しみだし、性能が上がってくれるのは素直に嬉しい。 


 そんな事を思いながら、輸送袋を腰につけ直していると、


「アクセルさん! いるかい!?」


 海賊の宿屋の扉をぶち抜くような勢いで、焦りの表情を浮かべたライラックが飛び込んできた。

「? どうしたんだ、ライラック。そんなに慌てて」


 俺が声を掛けるとライラックは、ふう、安堵の息を吐いてから、しかり直ぐに緊張感のある表情に戻り、

 

「ちょっと事故が起きてね。その解決のために、アクセルさん達の力を見込んで、依頼をさせてほしいんだ」

「事故の解決? ……一体なんの依頼だ?」


 聞くとライラックは真面目な顔で、窓から見える港の方を指さし、口を開いた。


「向こうの泊地から少し離れた所で大型商船が沈みかけている。その人員の救助に手を貸してほしいんだ!」

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