第41話水の都での支援

商業ギルドに荷物を置いた俺は、他所に用があると言って一時離脱していたマリオンと、街の中央にある広場で合流した。

 そして、彼女の先導で広場の中を歩いていた。

 

「こっちよ、アクセルさん。バーゼリアさん。さっきの時間で美味しいご飯のお店を予約して来たからね」

「ああ、用があるって言っていたのは店の予約だったんだな。助かるよ、マリオン」

「良いの良いの。時間があったからやっただけだしね」

 

 そんな風に微笑むマリオンと共にやって来たのは、水の都の中央にある錨のモニュメント横。

 船のマストを掲げた店だった。マストの先には看板替わりなのか、旗が掛かっており

 

「『海賊の酒場・宿屋』って書かれているんだが、ここでいいのか」

「ええ、そうよ。名前は少し物騒だけど、凄く安全な宿屋と食事場所なのよ」


 言いながら、マリオンは店の中に入っていく。なので、俺もその後についていく。

 確かに店内は普通の酒場といった感じで、飲み食いしている客を見ても、多少ガラが悪そうな輩はいるものの、そこまで物騒な感じはしない。

 そんな思いと共に、店の奥にあるカウンターに着くと、 

  

「いらっしゃい! 約束の時間通りに来たね、マリオン!」


 開口一番に、カウンターの向こうにいる女性がマリオンに声をかけた。

 豊満な身体にエプロンを付けたエルフの女性だ。


「ええ、今日はよろしく頼むわね、女将さん」

「合点だ。店主として美味いメシと良い部屋、ちゃんと用意させてもらうよ!」


 やり取りを聞くに、店主とマリオンの二人は結構、仲の良い関係みたいだ。なんて思っていたら、エルフの女性の目がこちらを向いた。

 

「マリオン、アンタが『凄い逸材』って言ってたのは、この運び屋さんだよね?」

「ええ、そうよ。……アクセルさん、バーゼリアさん、少し女将さんを紹介させて貰っても構わないかしら?」

「ああ、構わないが、マリオンの知り合いでいいんだよな?」


 俺の問いに、マリオンは苦笑した。


「知り合いというか、同じ立場というか……女将さんはね、『海賊の宿屋・酒場』の店主で、王導12ギルドの一つ《海事》ギルド、アクールの頭領をやっている方でね。ライラックさんって言うの」

「この女将さんが、ギルドの頭領?」


 俺の疑問混じりの声に、ライラックと呼ばれたエルフの女性はニカッと笑って頷いた。


「そうさ。アタシはライラック。一応この店と、一ギルドの頭を張ってるモンだ。アンタの話は、マリオンの方からよく聞いてるよ、空飛ぶ運び屋のアクセルさん。仲良くしてくれると助かるんだけど、握手させて貰っていいかい?」


 そう言って、ライラックは俺とバーゼリアに向けて両手を差し出してくる。いきなり紹介されたので少し面食らってしまったが、好意的な人であるのは分かった。

 だから、その手を握り返した。

 

「ああ、こちらこそ、よろしく頼むよ、ライラック」

「よろしくねー頭領さん」

「あいよ。力強い握り返し、ありがとうよ」


 ライラックは豪快に笑いながら、手をぎゅっと握った後で離した。


「しかし、《海事》ギルドの頭領が宿屋の店主とは、驚いたな」

「はは、よく言われるよ。まあ、半分は趣味さ。昔は荒らくれ者の多い、海賊共のたまり場を作るつもりでやってたんだけどね。いつの間にか来る人も増えて、店もでかくなっちまったのさ」


 なるほど。だから店の名前が海賊の宿屋なんてものになっていたのか。

 

「面白い経緯だな」 

「アタシもそう思うよ。……しかし、アクセルさん。アンタ、話に聞いていたよりもずっと男前な顔と手をしてるねえ。流石はマリオンが興奮しながら話してきた逸材だよ。あまりに熱を持って話すもんだから、マリオンに紹介して欲しいって頼んだけれど……うん、今日は知り合えてよかった!」


 ライラックは力強く言った後で、よし、とエプロンを締め直し、


「ささ、今からメシを作るからさ、席に座って待っててくれよ。お近づきのしるしに、たっぷり作るからさ」


 そう言って、カウンターの奥の厨房に引っ込んでいった。そして厨房からは『野郎共、準備はいいな!?』『押忍!』という威勢のいい声が聞こえてくる。


「……凄いエネルギッシュな人だなあ」

「ええ、本当にね。あ、でも、悪い人じゃないのよ?」

「それは見てれば分かるさ。握手の時も気を使っていたし」

「うん。ご主人とボクで、力加減を変えていたもんね」


 バーゼリアの言う通り、ライラックは豪快に見えて細やかな気配りが出来る人のようだ。

 だからこそ、ギルドの頭領になっているのかもしれないが。


「気持ちのいい人だね、あの頭領さん」

「女傑って感じだしな。……というか、あんな立場の人を紹介してくれて、有難うな、マリオン」


 もしもマリオンがいなければ、この店に入る可能性も少なかったわけだし。ライラックとも知り合えなかっただろう。

 そう思って礼を言うと、マリオンは微笑みながら首を横に振った。 


「アクセルさんには星の都を救って貰ったわけだしね、このくらいの仲立ちはさせて欲しいわ。全然恩返し出来ていなかった私が勝手に動いただけなんだから、気にしないで。この街に滞在するにせよ、ここから旅立つにせよ、人脈は合った方が役に立つだろうって思っただけだし。あ、それと、女将さんに話を通せば、海事ギルドからのの仕事も受けられると思うわよ」


「なるほどなあ。仕事したくなったら、ライラックさんに聞けばいいんだな」


「ええ、サジタリウスのやり方と一緒って伝えたから、アクセルさんの自由に出来ると思うわ。勿論、ご飯がこの街で一番美味しい所だっていうのも本当だから、存分に食べて行って。あと、今夜は上の部屋で泊まれるように、アクセルさんが商業ギルドに行っている間で、部屋を借りておいたわ」


 そう言って俺に部屋の鍵まで渡して来る。

 ここまで準備良くしてくれると、もはや感謝しかないな。


「なんというか、星の都に続いて、水の都でも何から何までサポートしてくれて、ありがとうよマリオン」

 

 素直な気持ちで再び礼を言ったら、マリオンはマリオンで再び微笑みを返して来る。


「良いのよ。私は最後までアクセルさんを支援するって言ったんだから。これもその一環なのだしね」


 こうして俺は、水の都での宿泊拠点と、新たなギルドとの繋がりを得る事が出来たのだった。

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