第21話ルーキー《運び屋》の実験と噂話
「一度に持ってこれるスキルは今のところ、二つが限界、みたいだな」
過去輸送機能を手に入れた翌日、俺はバーゼリアと共に昼飯を食べながら、朝から続けた実験の結果を確認していた。
「つまり、現状の輸送袋の容量半分を使って、スキル一つを持ってくる形、みたいだな」
「みたいだねえ。ご主人が三つ以上、スキルを使おうとしても発動しなかったし。あと、輸送袋の中が空じゃないと、一つだけしか出なかったし」
軽く試しただけでも、それが分かった。
運び屋として動き続けるなら、一つのスキルを輸送して使っていくのがバランス良いだろう。
幸いにも竜騎士には、一つのスキルだけ使っても有用な物はたくさんあるし。
そもそも使えるだけでも御の字と言えるものだ。
この先もっと輸送袋がでかくなれば、輸送できるスキルを増やせるかもしれないけど、
「ま、期待せずにオマケ程度に考えておくのが良さそうだな」
「うーん、ご主人って本当に竜騎士に未練がないというか、欲がないよねえ。そういう所も好きだけどさ」
「未練を持っても仕方がないだろう。それに、俺は単純に折角運び屋としてのスキルも鍛えられていて、そっちも使いたいと思っているから。ちゃんと欲はあるぞ」
過去輸送だけではなくて、この輸送袋にはかなりの可能性を感じる。
……まだまだ実験したい事も残っているし、もっと過去輸送を含めて、機能を使いこなしたいところだな。
と、俺がテーブルの上に乗せた輸送袋を弄っていたら、
「――おや、そこにいるのは、アクセル君かね?」
「あれ? ドルトのおっさん?」
店のカウンターの奥から、ドルトが手を振りながらやってきた。
「どうして店の奥からドルトのおっさんが出てくるんだ?」
「ああ、ここはワシが直々に商品を卸している店でね。とても良い茶を淹れてくれるのだ。それで、今日は客入りもそこまで多くないという事で、卸しついでに入れてもらったのだよ」
ドルトは俺の隣の席にのそりと座った。
「商業ギルドのお偉いさんじきじきに品を提供してる店だったのか、ここ」
家の近くでなかなか美味い野菜と肉を出してくれるものだから通っていたのだが、まさかそんな店だとは。
まあ、だからと言って、この店の評価が変わるものでもないのだが、と茶を飲んでいたら、
「そういえば聞いたよ。アクセル君、ミーティアの鱗を砕いたのだったな?」
ドルトも茶を飲みつつ、そんな風に話を切り出してきた。
「ああ、なんかあの後上手いこと砕けたらしいな。店主さんがめっちゃお礼を言ってきたよ。あと食事券を大量にもらった」
一年間くらいはほぼ食べ放題出来る位に手渡されたので、後々、ほどほどに使わせてもらうことにしようかな、と思う。
「まあ、なんにせよ、邪魔な物を処分できたみたいでよかったよ」
「古の龍の鱗をただの邪魔物扱いとは……。全く、どういう技を使ったのかは知らないが、相変わらず君はワシを驚かせてくれるよ」
ドルトは目を弓の形にして嘆息する。
「というか、ドルトのおっさん、情報を知るのが早いんだな」
俺が酒場の店主から鱗の破壊について知ったのは、今朝のことだというのに。
「まあ、この街と風の都市の事については、な。多少は情報収集しているさ。……まあ、そもそも、君の勇名はこの街に広まっているから集めようとする必要もないのだがな。すごいぞ、『空飛ぶ運び屋』は、この都市だけではなく、都市外の流通関係者にもその存在を知られているのだから」
「え、そんなにか?」
「ああ、噂レベルである話も多いがな。ただ、『星の都には、空を跳ねる運び屋がいる』というのは確実に出回っている話だ」
「情報の拡散、早いなあ。まあ、俺個人が困るような事じゃなきゃ、別に名前がどう広まってくれても構わないけどな」
そういうと、ドルトはほほ笑んで静かに首を横に振った。
「この話で君を困らせる気は無いし、困ったことがあればいつでも言ってくれ。いくらでも手を貸すし、情報統制だってして見せよう」
「いや、うん、気持ちはありがたいんだけどさ。俺みたいな一運び屋にそこまでしなくてもいいだろう」
「アクセル君。君にはそれだけの価値と力があるのだよ。ああ、なんなら、ワシのギルドの専属となってもらいたいくらいに。そして、我が孫娘に教師として付いて貰いたくもあるくらいに、な」
「おいおい、勧誘か?」
「うむ! 正直言って勧誘している! サジタリウスで基本を学んだのだし、どうだろうか、と」
想像以上に、正直に返してきた。
まあ、これくらいまっすぐに対応してもらった方が俺としても返答がしやすい。そう思いながら俺も正直に言葉を返す。
「――まあ、でも、ドルトのおっさんに、そう言って貰えると有り難いんだけどさ。生憎、俺は仕事を覚えた始めたばかりで、まだまだ運び屋として覚える事がある。人を教えるような立場にはなれないな」
それに……今の内から一つの所に専属する気は今のところ無い。
そう伝えると、ドルトは少しだけ残念そうに笑った。
「ああ、そうか……いや、そうだな。ワシも早まった。だが気が変わったらいつでも言ってくれ! 君ならいつでも歓迎しよう。それに仕事の依頼はいくらでもさせて貰う。各都市の橋渡しも出来るから、そちらの面でも何かあったら言ってくれたまえ」
そして残念そうな笑みから豪快な歯を見せる笑みに変えて、そんなことを言ってくる。
「誘いを断ったっていうのに、何から何まで悪いな」
「いや、良いのだ! 君は我が孫娘の恩人にして――この街で誇るべき運び屋なのだからな。さ、ここの会計はワシが持つ。幾らでも飲み食いしてってくれたまえ!」
「おお、ありがとうな、ドルトのおっさん」
そんな感じで商業ギルド、サブマスターとの突発的な食事の時間は過ぎて行ったのだった。
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