第3話 成長確認と来訪者
散歩をしたあと、家に帰った俺はまず、スキル【輸送袋】の容量チェックをすることにした。
星の都・コメートにある俺達の家は木造二階建てで、かなり広い。
魔王退治による報酬だから、とこの国の王が気を利かせてくれたのだ。
設備も最新鋭で、家具なども備え付きだ。
また、二階は竜騎士時代に使っていたポーションや薬品の倉庫になっており、そこそこの物が我が家の中には置かれていたのだが、
「全部入っちまったな、これ」
輸送袋は二階にあったアイテムを全て受け入れてしまった。
家の物を詰め込んで、輸送袋にどれだけの容量があるのか確かめようとしたのだが、二階にあったアイテムをすべて詰め込んでも、まだまだ余裕があるほどだった。
「ご主人ー、もう二階には入れられそうなもの、無いよ~。あとはボクが家事をする時に着るメイド服くらいしか」
「バーゼリア、お前はいつの間にそんなものを買ったんだ。……ともあれ、これじゃ容量が分かり辛いし、別の方法で確かめるか」
「別の方法? 何かあるの?」
「ああ、巫女さんが言っていたんだがな。風呂場で水を入れてみようと思う」
この家には設備の一つとして水道も通っている。
それを使おう、と俺たちは一旦、リュックの中身を空にした。
そして一階の風呂場に行き、グレード2の輸送袋に水がどれだけ入るのか実験してみたのだが――
「マジか、これ……」
数分後、俺たちは実験結果に唖然としていた。何せ、
「滅茶苦茶入ったね、ご主人……」
「ああ、浴槽いっぱいの水が三杯入るとは思わなんだ。容量すげえな」
想像以上に容量があったのだ。
浴槽三杯目を超えた段階でようやくリュックから水があふれた時には、『ああ、輸送袋は底抜けじゃなかったんだ』とちょっとした安心感すら覚えた程だ。
こんな反応になっても仕方がないと思う。
しかも、輸送袋に水を入れた状態で他の荷物を出し入れしても、荷物が濡れたりする事は無いという事も分かった。
どうやら入れた荷物がお互いに干渉する事は無いようだ。
そしてリュックを傾けてて水を出してみると、入っていた水は綺麗なままで、汚れている様子は無かった。
そのまま飲み水にして良いかはまだ分からないけれど、保存容器を使えば衛生面でも問題は無いように思えた。
「これなら水と食料を数週間分くらい入れても余裕があるって感じだな」
その上リュックを持ち上げても、入れた分の重さを感じる事も無い。
「ご主人のスキル、すっごく便利だね」
「ああ、能力値の低さを補って余りある位だよ」
物足りない点としては、袋の中は常温で、冷たい水を入れても時間が経つにつれて温くなる、という所だ。けれど、
……この収納力を見たら些細な事だよなあ。
などと、未だに出続けているリュックの中の水を浴槽に流しながら俺が実感していたら、
「ねえ、ご主人。次はこれも入れてみよ――って、あ! ご主人、机の上のスキル表が光ってるよ!」
「え、またか?」
言われて見ればリビングの机の上に置いていたスキル表が、確かに光っていた。そして、
【規定距離移動完了 条件達成――《運び屋》レベルアップ!】
やはりレベルアップしていた。
「おいおい、散歩した後、一階と二階をうろうろしてたらもうレベル3になったぞ」
「いやあ、《運び屋》としての成長率とんでもないね、ご主人。もしかして天職なんじゃない?」
「一切仕事をしてないのに天職って言われるのは変な気がするけどな! いやまあ、天から授かった職だけれどもさ」
そんな事を言いながら俺はスキル表を確認する。
確か未修得になっていたスキルはまだまだあったはずだ、とレベル3の欄を見ると、やはりそこには新スキルの名が刻まれていた。
【輸送袋グレード3 内部100%拡張 保冷・保温機能追加】
「うわ、さっきの物足りない点が消えたよ」
というかまた拡張されたよ。
……レベルアップする前に調査しておいて良かったな、これ。
調べるのが大変になる前に、基準が出来て助かった。
とりあえず、収納が更に倍ということは、水と食料を1か月分は入れられる事になったのだろう。
その上、保冷・保温機能が付いてくれたので、生物や温かい物も入れられるかもしれない。
「更に旅をしやすいモノになったな」
「旅……旅かあ。いいねえ。ボク、ご主人に今までお世話になったから、逆にご主人をお世話しながら旅をしたいな! その為に家事も覚えたし!」
「料理はからっきしで俺任せだけどな」
「そ、それはこれから覚えるから! すぐに上手くなってみせるから待っててよ、ご主人!」
「はいはい。まあ、楽しみにしているよ」
などと、俺がバーゼリアと喋っていると
「御免下さーい」
我が家のドアがノックされると共に声がした。更にその声は続いて、
「アクセルさんのお宅はこちらでしょうかー?」
「はいよ。どちらさまで?」
玄関からの声に返答しながらドアを開く。
すると、玄関先には、フードを被った鎧姿の青年が立っていた。そして、
「……その声はアクセルさんだよね。お久しぶりです。オレの事、覚えてるかな?」
そんな事を言いながら、鎧姿の青年はフードを外した。
露わになったのは、くすんだ銀髪と可愛らしいともいえる中性的な顔。俺はその顔に見覚えがあった。
それはかつてともに戦った勇者で、
「お前は……聖剣の勇者、ファング、か」
「ああ、良かった! アクセルさん、オレの事、覚えていてくれたんだね! 転職する日が今日だって聞いて、祝いに来たよ!」
初級職に転職したばかりの俺の元に、勇者の一人が訪ねてきたのだった。
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