カラオケ――2

 結局、参加者は一二名になり、ゴールデンウィークの二日目、俺たちは清海高校の最寄り駅近くにあるカラオケを訪れていた。


 大部屋に通された俺たちは早速歌いはじめ、いまは雛野の番だ。


 マイクをギュッと握りしめた雛野は、昨年末に放送されたドラマの、挿入歌であるラブバラードを歌っている。やはり緊張しているらしく、見るからに体はガチガチになっており、歌声もたどたどしい。


 それでも一生懸命に歌っている姿は、はじめてお遊戯会に出た幼児を連想させ、聴いている俺たちはとても優しい気持ちで雛野を見守っていた。


「お、お粗末様でした」

「ううん、そんなことないよー」

「癒やされたわー」


 一曲歌い終えた雛野が恥ずかしそうにペコリと一礼する。聴いていた俺たちは例外なく温かい拍手を送った。


「さて、まだ歌ってないひといない?」

「赤川がまだじゃね?」


 天堂さんの問いかけに、参加者のひとりが指摘する。ここまでタンバリンでの盛り上げ役に徹していた俺はギクリとした。


「じゃあ、赤川くん、曲入れなよ」

「お、俺はいいよ」


 デンモク(楽曲の検索と転送を行う端末)を差し出してくる天堂さんに対し、俺はブンブンと首を横に振る。


 天堂さんが困ったような顔をした。


「でも、聞いてるだけって退屈じゃない?」

「充分楽しいって。俺は盛り上げ役に専念させてもらうよ」

「んー……一曲くらいどう?」

「俺、音痴だからさ。俺が歌っても盛り下がるだけだよ」

「そっか……それじゃあ、しかたないか」


 天堂さんが取り繕ったような笑みを見せた。ほかのひとたちも決まりが悪そうな顔をしている。


 ギシリ


 空気が強張こわばる音がたしかに聞こえた。


 あ、あれ? なにこの空気? もしかして、俺、またやらかした?


 なぜだかわからないけれど、中三のが脳裏にフラッシュバックする。俺の余計な行動で、修学旅行の雰囲気を台無しにしてしまった黒歴史。


 あのときのように、ズシン、と胃袋が重くなる。


「お、俺、ドリンクとってくる!」


 たまらず俺はカラオケルームから出て、逃げるようにドリンクバーへと向かった。

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