夫婦みたい――1

 休日明けの月曜日。今日から本格的に高校生活がはじまる。


 俺と雛野は制服姿で朝食をとっていた。俺は紺のブレザータイプ、雛野はセーラー服タイプのものだ。


 入学式の日にすでに見ているけれど、雛野の制服姿はとてもさまになっていた。白いセーラー服にクリーム色のカーディガンを羽織り、胸には学年を示す赤いリボン(リボンの色は学年毎に異なる)。紺のスカートにはプリーツ加工が施されており、両脚は黒いタイツに包まれている。別段珍しい格好ではないが、雛野が着ると、大輪の花のごとく煌びやかに映る。


 中学まで喪女って呼ばれていたとは、とてもじゃないけど思えないよなあ。


 雛野:高校デビューバージョンの魅力に改めて脱帽しながら、俺は味噌汁をすする。


 今日の朝食は、ワカメとジャガイモの味噌汁、筑前煮、納豆――これぞ日本の朝食というような純和風の献立だった。


 味噌汁は出汁と味噌の風味が素晴らしく、野菜がゴロゴロ入った筑前煮は、どの具材をとっても芯まで味が染みている。納豆は、ウズラの卵とネギがトッピングされた豪華バージョンだ。


 これまでに雛野が用意してくれた献立を思い返すと、野菜が多めだということに気づく。肉じゃが、サンドイッチ、生姜焼きには野菜サラダが付け加えられていたし、今朝の筑前煮も野菜たっぷりだ。きっと栄養バランスに気を遣ってくれているのだろう。比喩でも冗談でもなく、雛野は本当に天使なんじゃないだろうか?


 感涙しそうになりながら、雛野が用意してくれた朝食を、俺は残さず平らげた。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」


 いつものように感謝を込めて手を合わせると、はにかみとともに雛野が湯飲みを差し出し、急須のお茶を注いでくれる。


「まだ肌寒いから、ほうじ茶で体を温めてね?」

「至れり尽くせりだなあ」


 ふたりでほうじ茶をすすり、ホッと一息。ここまで心安らぐ朝はひさしぶりだ。


 とは言え、そろそろ家を出るべき時間帯だ。学校へ向かうために乗る電車の発車時刻が近づいてきた。いつまでもまったりしてはいられない。


 もう一度湯飲みを傾けたのち、俺は口を開いた。


「そろそろ行こうか」

「うん、そうだね」

「それじゃあ、どっちが先に出る?」

「え?」

「え?」


 雛野が不思議そうに目をパチクリさせた。予想外の反応に、俺もクエスチョンマークを浮かべる。


「どうして、わざわざ別々に出かけようとするの?」

「どうしてって……同じタイミングで部屋を出たら、一緒に登校することになるだろ?」

「え?」

「え?」


 雛野が不思議そうに小首を傾げた。予想外の反応に、俺もまた小首を傾げる。


 なんだか会話がかみ合わないなあ、と眉をひそめていると、雛野が尋ねてきた。


「一緒に登校するんじゃないの?」

「いや、しないよ?」

「ええっ!?」


 俺の返答を耳にして、雛野が仰け反りながら目を白黒させた。実にわかりやすくビックリしている。


 なるほど。俺たちの会話がかみ合わなかったのは、一緒に登校すると雛野が考えていたからなのか。


 俺が納得を得ていると、雛野が身を乗り出してきた。


「ど、どうして!? わたしと一緒だと嫌!?」

「嫌じゃないけど、俺と雛野が一緒に登校したら仲良しだと思われるだろ?」

「仲良しだと思ってたのはわたしだけだったの!?」


 雛野が涙目になる。俺の真意を理解していないらしい。


 雛野の涙にオロオロしながら、俺は言葉を付け足す。


「ちゃんと仲良しだよ! 中学の頃よりずっと仲良くなったとさえ思ってる! だから泣かないでくれ!」

「じゃ、じゃあ、どうして別々に登校しようなんて言ってるの?」

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