一緒の登校③

「じゃ、また」


 校門前で渉と別れる。

 高等部と中等部では、過ごすエリアが違う。活動はかぶることも結構あるけれど、教室がある棟は別々だ。


「うん、頑張ってね」


 梓は渉に言った。渉は「ああ」とだけ言って、ちょっと手をあげて高等部の昇降口のあるほうへ歩いていく。

 その後ろ姿を見送って……梓はちょっと、目をまたたいてしまった。

 一人になって歩いていく渉。その様子を見ているのは梓だけではなかった。


「小鳥遊くんよ!」


「今日はちょっと遅いのね」


 言い合っているのは、同じ高等部の女子。嬉しそうだった。

 渉にとって、先輩か後輩なのかはわからないけど、小鳥遊くん、と言っていたから同級生か先輩なのかもしれなかった。

 そう、『お兄ちゃん』が歩くと大抵こうなるのだ。

 渉は学園ですごく人気があった。今のように女子にきらきらした目を向けられるのはもちろん、男子の友達も多い。

 社交的で明るくて、誰にも優しいので好かれる要素はたっぷりある。

 こんな、学園でも人気の『王子様』がどうして自分と兄妹になってしまったのか。

 梓はいまだに首をひねってしまうのだった。

 カバンを持って、その様子を見守っているうちに、うしろからぽんと肩を叩かれた。


「おはよう梓ちゃん!」


 振り返ると友達が立っていた。にこにこと朝から笑顔だ。


「おはよう」


 梓も振り返って、にこっと笑った。せっかく会ったのだから一緒に教室へ行くことにする。

 中等部の昇降口へ向かいながら、ちらっと渉の歩いていったほうを見る。

 もう渉はさっさと歩いていってしまったらしく、姿は見えなかった。

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