異界門の管理者です。最近転移している人が多いです。神様しっかりしてもらわないと私の仕事が増えて大変なんですけど。。
燈路
第1話 異界門の管理者
突然ですが異世界に行きたいと思ったことはありますか。
自分が今暮らしているその世界から飛び出して、全く異なる価値観の世界に行くというのは非日常的で誰もが憧れ夢見る話です。
今いる世界で自分は活躍できないけど異世界に行けば何かが変わるかもしれないなど何の根拠もない自信を持つ方もいらっしゃいます。
きっと人々にとって異世界というのはそれほどの夢を持たせてくれる、それはそれはとても甘美な響きに聞こえる言葉なのだと思います。
果たしてそれほど楽しいものなのかというのは私としては疑問に思うこともあります。天寿を全うした人が別の世界で別の生命として転生するのであればそれは幸せなことかもしれません。
一方で突然見ず知らずの世界に召喚されてしまった人などは望まない異世界生活を苦労しながら送っているかもしれません。
そんな望まぬ異世界生活を送る人々、私が迷い子と呼んでいる方たちの生活を支援したり、望む方には元の世界に帰るお手伝いをしてあげるのが異界門管理者である私のお仕事です。
とはいっても異世界に迷い込む人なんてそんなにたくさんはいないから楽な仕事なんだろうなと思いますよね。え、思わない? おかしいですね。
しかし確かに最近は異世界に飛ばされる人が増えているようです。ふつうは世界の間をそんなに多数の人が頻繁に行き来してしまう状態はおかしいのですが……きっと神様が管理をさぼっているに違いありません。
異界門管理者としては「私が何とかしなくてはいけないな! がんばるぞ!」とは思い毎日のように頭をひねってはいるのです、原因や対処策が浮かばない今日この頃です。まあ考えたところで今はどうにもならないこともあるのでお茶をすすりつつ本日も日向ぼっこに明け暮れるとしましょう。
「アトさん!!」
自室での日向ぼっこ&朝のティータイムを楽しみながら最近の仕事の多さの愚痴を考えていたら突然玄関のドアが開いて私の名前を呼ぶ声がしました。
「クランさん? 人の家にノックもなしに入ってくるのはやめてくださいといつも言っているじゃないですか……」
「大変なんです! 緊急です!」
「大変そうなのはなんとなく見れば分かりますがそんなに慌てて今日はどうしましたか?」
「いつも通り町の入り口で立派に衛兵として働いていたら、「異界門はどこだ?」と訪ねてきた人がいたので場所を教えてあげたんです。そしたら僕の制止の声も聞かずに全力で走りだして街の中に入って行ってしまいまして……」
私の家の玄関を勢いよく開いて息を切らしながら飛び行ってきたのはシルヴィク正門に努めている衛兵のクランさんでした。私がこの街に来た頃から顔見知りで、すごく良い子なんですが、いつも何かしらのトラブルを運んでくるいわゆるトラブルメーカーです。
「つまり異界門に用事がある身元不明の不審な方を街の中に入れてしまったということですね」
「つまりはそういうことです!」
「それで上官や他の衛兵の方とその不審者を捜索中ということですか?」
「まだ伝えてません!」
「ダメじゃないですか!?」
この街に不審者が入ってきているけれどそれを知っているのはクランさんと、今話を聞いた私だけということになります。
「アトさんに相談する方がよっぽど早いかと思いまして!」
「私は衛兵でもないですし、シルヴィクの治安維持をしている立場でもないんですが……」
「異界門に用事がある不審者だと思うのでまずはアトさんにと!」
「……ふんわりとは論理が通っている気はしますね……」
「はい! なので対処をお願いします!」
「……わかりました。異界門関連のトラブルということでその人を見つけて私の方でも対応しましょう」
「やった! ありがとうございます!」
そんなに信頼した眼でうれしそうに元気よく言われても困ってしまいます。
「不審者なのか、もしくは迷い子の可能性もありますね。異界門に用事があるのは間違いないようですし異界門前で待っていれば来るでしょう。まずはその方を探してお話をしてみましょうか」
「ありがとうございます!! お願いします!!」
この世界に飛ばされてきてしまった異世界人、迷い子であれば元の世界に導いてあげないといけません。それ以外の場合どうするかはありますが……
「それじゃあ僕は正門の番に戻りますね。昼交代だった別の人に押し付けて来ちゃってるので」
「何言ってるんですか、任せましたみたいな顔して言ってますけど、クランさんも一緒に行きますよ。その交代した衛兵の方にはすみませんがクランさんが持ってきた話なんですから最後まで面倒は見てください」
「えっ!? 僕も行くんですか!?」
「当たり前です人に丸投げで終わりとは言わせませんよ。じゃあ行きますよ。“
「ちょっと待ってくだs」
驚いた表情をしたクランさんの手を強引にとりテレポートの魔法でシルヴィクの中央広場まで移動しました。
「……了承とる前にテレポートするのやめてくださいよアトさん!」
「どうせ正門に戻るつもりもなくて、私に仕事させてる間に喫茶店で一休みとでも考えてたんでしょう?」
「!? いや……そんなこと……思ってないですけれども……?」
完全に図星だったのか、何度も似たような弁解の言葉で「いやそんなことなかったですけど?」と誤魔化しながら右斜め上を向いていました。
「それにクランさんだってノックもなし、了承もなしに乙女の家に入ってきたんですからおあいこですよ」
「ぐぬぬ……」
反論しようにもできない、少々悔し気な顔をしているクランさんは一旦置いておきましょう。
「いったん中央広場に来てみましたが、特に騒がしい様子もないですし、その不審な方はまだのようですね。まあ異界門で待っていればやって来るでしょうしそちらに向かいましょうか」
私が異界門の方へ歩きだすと、若干不服そうながらもクランさんも後ろをついてきました。
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