かえぬもの

@Roua

餓鬼の頃

「おぇっ…ゔっ…うぅ」

昼を少し過ぎた頃、ひどく醜い身なりをした餓鬼が路地裏のゴミ捨て場に捨ててある残飯を必死で貪っていた。腐りかけの残飯に食らいつき、腹へと入れていく。

「ゔっ…おぇぇっ」

びちゃびちゃと腹に入れていたモノが口から吐きこぼれる。餓鬼は他に食えるものは無いかと探したが、もうゴミ山に食えそうなものは残ってはいなかった。もう一週間はまともに食えていない。あたりに虫の音が大きくなり響いた。ここで食わねば明日死ぬだろう、そう思うと餓鬼は土のついたそれをまた腹に戻そうと頭を垂れ、畜生のようにくらった。口に広がる強い酸味に吐き気を覚えながらもそれを腹へと入れ続け、ついにはばたりと倒れ込んでしまった。

餓鬼が目を覚ますとあたりは薄暗く、日が暮れているのがわかった。路地裏から見える大通りには苦労を知らぬ子供らが母親に手を引かれ、幸せそうにしている。餓鬼の目に映るそれは次第に歪み、夕焼けのせいで眩くひかり始めた。餓鬼はその場から逃げるように走って『巣穴』に帰っていった。『巣穴』、かつては楽園とまで称された大きな宿屋であったが十数年前に事故が起き、それ以来客足が遠のいた結果誰も寄り付かなくなり、それからというもの餓鬼と同じようなみてくれの者たちであふれることとなった。

餓鬼は『巣穴』の前で大きく息を吸い、呼吸を整え、俯きながら静かに『巣穴』へと入っていった。餓鬼が『巣穴』に入った瞬間、『巣穴』に響いていた喧騒が嘘のように消え、皆、餓鬼の方を見つめ始めた。すると誰かが声をもらした。

『呪われた赤毛だ…』

その声を端にみな口々につぶやいた。

『赤毛だ…』『赤毛が帰ってきやがった…』『呪われた忌み子だ…』

餓鬼はその声に耳を傾けずに堂々と、しかし顔を上げることなく、自らの寝床へ進んでいった。

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