第57話 アイリスの答え
「成程。行きの馬車で様子がおかしいと思ったんですが、そういう事だったんですね。」
今までの一連のやり取りで、流石のルカスも、アイリスとレナードの事情を察した。
よそよそしい態度の二人に、レナードがアイリスに何を言ったのか、そして、それをアイリスがどう受け止めたのか、いくらルカスでも想像が出来たのだ。
「それで、お二人の間で話は纏まっているのですか?」
「いや、それがまだ……」
「それでしたら少し二人で話してきたらどうですか?我々はここで待ってますから。」
レナードの曖昧な様子にルカスは困った様に二人を交互に見比べると、大きな溜息を吐いて、躊躇っている主君を後押ししたのだった。
レナードに対しては、彼も気をつかえるのだ。
「……アイリス嬢、良いだろうか?私は君と二人で話がしたい。」
レナードは、ルカスの進言で自分が抱えていた鬱屈した気持ちを振り捨てると、真剣な目で真っ直ぐにアイリスを見つめて、彼女にもう一度自分と対話をして欲しいと、同意を求めたのだった。
これがきっと最後の機会である事は分かっている。もう一度自分の想いをぶつけても、アイリスはまた拒絶してしまうかもしれない。そんな恐怖を考えないことも無かったが、彼はどうしても、アイリスを諦められなかったのだ。
「……分かりました。あの、ルカス様、もう少しだけ奥に行って来てもいいですか?」
アイリスはレナードの申し入れに同意すると、この場から少し離れて良いかルカスに確認した。もう少し奥に入った所に、レナードを案内したい場所があるのだ。
「……あまり遠くに行かないでくださいね。」
いつも口うるさくレナードの身の安全について目を光らせているルカスの事だから、自分の目の届かない所にレナードが行く事を許しては貰えないだろうとは思ったが、どうやら、今は目を瞑ってくれるそうだ。
そうして、デリンダを見張っているルカスとカーリクスをこの場に残して、アイリスはレナードを手招きすると、彼を森の奥へと誘ったのだった。
「これは……ステージ?」
「はい、そうです。月の女神が降りたと言われる祭壇なんですよ。」
「成程。ここだけ森が開けてて、真っ直ぐに月光が降りて来るんだな。」
「えぇ、綺麗でしょう?」
アイリスはレナードを月影の森の奥にある祭壇へと案内したのだった。
木々が鬱蒼と茂っていて、仄暗い森であったが、この祭壇だけは、月の光を浴びて、神々しく光り輝いていた。
それはとても幻想的で、今にも月の女神が降臨して来そうな程、神秘的な尊さを放っていた。
そして二人はステージの真ん中まで来ると、お互いに向き合った。ここに居るのは二人だけ。もう、どこにも逃げられない。
「……それで、君の返事を聞かせてくれるだろうか。」
レナードは酷く緊張した顔でアイリスを見つめた。
彼女の答えを聞くのは大変怖いことでもあったが、彼女の愛を手に入れたいのならば、ここから目を背ける事は出来ないのだ。
「アイリス、君を愛おしく思っている。もう二度と、貴女を危険な目に遭わせないし、よからぬ噂からも貴女を必ず守るから、この先の生涯を貴女と共に過ごしたい。俺の隣に立つのは君じゃないと駄目なんだ。
我儘かも知れないけれども、だからどうか俺の側に居てくれないか。」
レナードは彼女に愛されたいと願って、ありったけの想いを、痛いくらいに焦がれているこの気持ちを、もう一度アイリスにぶつけたのだった。
「……逆ですわ。」
沈黙の後、アイリスはレナードから顔を背けて小さな声で呟いた。
「えっ?」
上手く聞き取れず、レナードが聞き返すと、アイリスは真っ赤にした顔を上げて、彼の事を真っ直ぐに見つめた。
「……さっき言いましたでしょう?私が、殿下を月の魔法でお守りしますわ……」
アイリスは耳まで真っ赤にしながらも、レナードの目をじっと見つめ返して、その想いに答えたのだった。
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