第54話 呪いの目的
「誰からの手紙だったのか覚えてないんですか?」
「もう実物も残ってないし、書いてある事も出鱈目だったからね、残念ながら分からないな。」
「しかし、状況的には彼女が犯人できっと間違いないですね……」
「まっ、でも、決定的な証拠が無いよね。彼女がやったって。この本だけじゃ物証にはならないよね。」
レナード、ルカス、アーネストの三人は、デリンダが呪いを掛けた犯人で間違いないとみなして話を進めていた。
だから、何だか口を挟むのが憚られたのだが、アイリスはおずおずと手を上げて、発言の許可を求めた。彼女が犯人ならば、どうしても分からない事があるのだ。
「あの……発言よろしいでしょうか……?」
「アイリス嬢?なんだい?」
「あの、私分からないのですけど……お話から察するに、きっとデリンダ様が殿下に呪いを掛けたのだとは思うのですが、彼女は殿下の事をお慕いしてるんでしょう?ならば何故、レナード殿下を呪うだなんて、そんな真似をしたのでしょうか?」
普通なら好きな人に呪いをかけるなんて考えられないのだ。ましてや、永遠に眠ってしまうなんていう恐ろしい呪いだ。レナードを慕っているデリンダがそんな事を本当にするとは思えなかったのだ。
「それは、この呪いの正しい姿を知れば、きっと君も分かると思うよ。」
アーネストは本を手にしているルカスに、本の内容を正確に読み上げるように言った。
そこには、このように記載されていたのだった。
「この呪いを受けた者はずっと眠り続けることになる。目覚めさせるには、術者が口付を送る事でのみ、呪いから目覚めることができる。」
それはまるで、アイリスの解呪の方法と同じだったのだ。
「わ……私は知りませんわ!いくら私が解呪出来るからって、私は殿下に呪いなどかけたりしませんからね!!」
「そんなの分かってますよ。そもそも、素人がやったから呪いが不完全だったんですよ。本来なら一度眠ってしまうと永遠に起きないものだったみたいだけれども、殿下は数日眠れば自力でも起きるんです。魔力がある貴女だから解除出たんでしょう。」
アイリスは慌てて否定をしたが、そんな事は皆分かっていたので、ルカスがキッパリと否定したように、誰も彼女の事を疑う者はいなかった。
「つまり、デリンダ様は、自分で掛けた呪いを解く事で、殿下に取り入ろうと考えていたのですね。」
「おそらくそうでしょうね。」
恋に身を焦がした思い詰めた令嬢とは、こうも暴走するものなのかと、アイリスは戸惑った。
それは、自分には無い感情だったから。
「大体、王族を呪うだなんで不敬も良いところです。立証できれば処刑間違いないんですがね。」
「呪いに使った道具は既に処分されてしまっているだろうし、彼女を正式に問い詰めるのは難しいだろうな……」
レナードとルカスは大きな溜息を吐いて、頭を抱えた。危険人物は分かっても、彼女を処罰する事は、出来そうに無いのだ。
「……まぁ、バートラント家は取崩しになるので今後彼女が殿下には近づくことは不可能でしょうから、釈然としませんが、後は月の花で殿下の呪いを完全に解呪したら、この件は幕引きですかね。」
「……そうだな……。なぁ、アーネストは、デリンダ嬢が今どうしているのか、そこまでは把握していないのか?」
今後の対処について頭を悩ませている横で、我関せずと優雅にお茶を飲んでいるアーネストにレナードは問いかけた。腹の中が読めないこの異母弟は、絶対まだ何か情報を持っている筈なのだ。
しかし、このレナードの読みは、半分当たりで、半分外れだった。
「うん。それが、現在彼女行方不明なんだよね。」
アーネスト自身は本当にデリンダの所在を知らなかったが、彼女が行方不明という事実は、レナード達にとっては脅威となる情報だったのだ。
そうして、アーネストはそんな爆弾をさらりと落とすだけ落として紅茶を飲み終わると、後は知らないと言わんばかりに、すました顔で執務室から出て行ったのだった。
部屋に残された三人はお互いの顔を見合わせた。
大丈夫だろうか……
気性の激しい彼女の事を思い出し、何かとんでもない事をしでかしそうでアイリスは胸騒ぎがした。
そして、繰り返しになるが、魔力のある者のこういった予感は残念な事に大抵当たってしまうのだった。
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