第52話 兄と弟2
「……あの、お二人は仲がよろしかったのでしょうか……?」
「どうしたらそういう風に見えるんだ?!」
目の前で繰り広げられる二人の忌憚の無いやり取りに、アイリスは目を丸くして驚いていた。
彼女からの突然の質問をレナードは暗に否定したけども、これはどこからどう見ても、お兄ちゃんが大好きで構って貰いたいから悪戯をする弟の構図であった。
レナードはアーネストに振り回されて辟易していたが、この二人の間に敵意や害意といった憎しみ合う様なものはまるで感じられなかったのだ。
「アイリス嬢は慧眼だねぇ。そうだよ。世間一般が思っている程、僕たちは仲は悪くないよ。少なくとも僕は、王位を継ぎたいなんて思ってないからレナードと対立する理由なんて無いしね。」
「そうなのですか?!」
「……まぁ、そうだろうね。コイツは……」
「だってさぁ、王弟だって結構な権力があるのに、面倒な責任とか重圧とかは、国王とは比べ物にならない位気楽にいれるんだよ?そっちの方が断然良い立場じゃ無いか。」
あっけらかんとそう言うアーネストに、アイリスは目を丸くした。レナード自身もアイリスに対して大分砕けた態度を取っていたが、赤裸々に王族としてはあまりよろしくない考えを語る彼に、自分が持っていた王族のイメージが音を立てて崩れていったのだ。
「まぁ、僕の事を王様にしたいと思ってる人は沢山いるけどね……」
そんな唖然としているアイリスに構わずに、アーネストは真顔になってそう言った。
本人が望んでいなくても、周囲から担ぎ上げられたら簡単には降りる事はできない。王位継承権争いとは、そういったものなのだ。
当人同士がいがみ合っていなくても、周囲がそれを許してくれないのだ。それはとても悲しい事だった。
「けれどレナード。お前の呪いは第二王子派の誰かがかけた物では無いよ。僕の耳に何も届いてないからね。」
「アーネスト殿下の預かり知らぬ所で誰かが勝手に……という事は無いのですか?」
「それは無いね。もし何か変わった動きがあれば信頼する密偵から報告が入る様になっているからね。それが何も無かったよ。」
ルカスの質問を、アーネストは直ぐに否定した。基本的に彼は人を信用していなかったので、彼に擦り寄ってくる第二王子派の貴族達のことも、一部を除いて全く信用していなかったのだ。だから、信頼できる密偵を放って、彼はその動向を常に監視していたのだった。
「……ねぇ、調べてあげようか?誰がレナードに呪いを掛けたのかを。僕そういうの得意なんだ。」
「……見返りに何をお望みなんですか?」
「嫌だなぁ、見返りだなんて考えていないよ僕は優しいからね。」
アーネストは足を組み直すと、訝しがるルカスに対してニッコリと笑った。
「ただ、王族に呪いをかけるなんて大それた事をやったのが、誰が何の為になのか、真相を知りたいと思ったんだよ。こんなネタ、暇つぶしに持ってこいじゃないか。」
彼の興味は、今度はレナードに呪いを掛けた犯人に向いているのだ。現実に起こったこの事件の真相を、犯人が誰なのかが、気になって仕方ないのだ。本当にただそれだけだった。
「……協力してくれるのなら有り難い。正直、手詰まりだった。」
弟の性格をよく知っているレナードは、今回に関しては、本当に何も裏が無いと思ったので、アーネストの申し出を有り難く受け入れる事にしたのだった。
藁にも縋りたかったのだ。
「いいよ、了解。何か分かったら教えてあげるよ。」
アーネストは満足そうに笑うと、「それじゃあ早速調べようかね」と言って部屋を出て行ったのだった。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、アイリスは漠然と期待してしまった。もしかしたら、これは強力な味方を手に入れたのかも知れないと。
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